漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「17才の帝国」(NHK総合 6月4日(土)22:00〜[最終回])をウォッチした。
* * *
202X年、GDPが戦後最大に落ちこんだこの国は「サンセット・ジャパン」と呼ばれた。
リアルにありそうな近未来の日没日本。この状況を打開すべく、AI「ソロン」による実験都市計画が立ち上げられる。
なるほど、AIが市政を仕切れば4630万円の誤送金も起こらない!? そしてAIが全国から選抜した実験都市の総理は、17才の高校生・真木亜蘭(神尾楓珠)だった。
全5話で放送された“お大尽”NHKならではの贅沢な社会批評ドラマ。民放ならばまず無理そう。いやアニメだったら、あり得るかも。
そもそも脚本は「平家物語」「映画 聲の形」などの秀作アニメで知られる吉田玲子。AI「ソロン」の声は、「新世紀エヴァンゲリオン」で主人公を演じた緒方恵美だ。
絶妙にオタク心をくすぐる孫の手のようなNHK。アニメではおなじみの少年の正義、無垢なる理想、その純粋な精神がもたらす残酷さ。それが本作には詰まっていた。
17才の総理は閣僚会議(全員25歳以下)をLIVE配信。市議会を廃止し、市の職員の50%削減を宣言する。
若者は喝采し、大人は渋い顔。新たなものへの拒否感と疎外感。かたくなな大人を演じる田中泯や岩松了の顔の圧がいい。一方、真木の心も地元の住民との触れ合いから、徐々に変化していく。
しかし彼が密かに生み出したAI「スノウ」(7年前に亡くなった友人をAI化したもの。女子高生の姿をしている)は、その変化を許さない。
アニメ的展開も、たびたび映し出される海や山、美しいロケ地・佐世保の風景が現実味を生む。特に印象的なのはAI「ソロン」の3本の塔だ。
てっきりCGだと思いきや、これが実在する針尾送信所の無線塔であることに驚いた。太平洋戦争で暗号電文を中継したとされるこの塔は、まるで日常と異界をつなぐような特殊な存在感だった。
常に隣で真木を支えてきた内閣官房副長官・平(星野源)。政治の清濁を知る彼が、最後に真木にこう語りかける。
「何かを得る代わりに、大切な何かを失っていく。それでもまだ青い夢を追いかけることはできる」
まっすぐで青い理想。どんな大人にもあった17才という季節。リアルに沈みゆくこの国には、そんな高2病(17才)イズムが必要なのかも。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2022年6月24日号