エアコンがフル稼働する暑い夏が近づく中、電気料金が値上がりしている。標準家庭の電気料金は、大手電力10社とも過去5年で最高水準に達した。食品やガソリン代など様々な物価が上がっている状況で、電気料金の節約につながる「家庭でできる省エネ術」はないのか。
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7月の標準的な家庭の電気料金は、2021年の7月と比べると大手10社とも値上がりしている。東京電力、中部電力は1800円超の値上げ。最も低い北陸電力も526円上がっている。食料品やガソリン代など、毎日のように値上げ発表が続く中、この値上がりは家計にとってかなりの痛手だ。
こんな時だからこそ目を向けたいのは、まだ知らない、もしくは知っていても試したことがない「省エネ術」だ。
■エアコン温度を1度上げるだけで…
資源エネルギー庁によると、電力使用量が増える夏季と冬季に、家庭での消費電力量が多い家電の1位(小数点以下四捨五入)はエアコン(夏34%、冬33%)。次いで冷蔵庫(夏18%、冬15%)、照明器具(夏10%、冬9%)と続き、この三つで夏冬とも約60%を占める。
同庁が公表している、家電の省エネ方法と年間で節約できる電気料金を見てみよう。あくまで設定した条件下で得られたデータで、電力会社が違えば電気料金も異なるし、最新の家電は省エネ性能も上がっている。だが、「今取り組んでも省エネと電気料金の節約効果は見込めます」(エネルギー庁担当者)と言う。参考にはなるはずだ。
【エアコン】
・冷房温度を27〜28度に→820円
・暖房温度を21度から20度に→1430円
・冷房使用時間を一日1時間短縮→510円
・暖房の使用時間を一日1時間短縮→1100円
・フィルターを月に1〜2回掃除→860円
【冷蔵庫】
・食材を詰め込んでいる場合は半分に減らす→1180円
・設定温度を「強」から「中」に→1670円
・壁から間をあけて設置→1220円
【照明】
・白熱球を電球系蛍光ランプに→2270円
・白熱球をLEDランプに→2430円
【テレビ(液晶)】
・視聴を1日1時間減らす→450円
・画面の輝度を「最大」から「中間」に→730円
続いて、家事アドバイザーの矢野きくのさんに、省エネのコツを聞いてみよう。知っていたとしても取り組んだことのない“知恵”があるはずだ。
矢野さんによると、暑い夏は、まずは室温を上げない工夫をすることが大切だという。室温を下げることでエアコンを使わなくてすむ時間が増える。エアコンを使うにしても室外と室内の温度差が小さい方が、消費電力が少なくなるメリットもある。
「私の住まいでは、日当たりの良い部屋と良くない部屋で室温が5度違いました。5度も違えば、エアコンを使うかどうかや、使う際の温度設定にも大きく影響しますよね。直射日光の当たる部屋は、窓の外にすだれなどをかけてみてください。日光を遮ることで室温はぐっと下がります」(矢野さん)
室温を下げた後は、エアコンを使わず風に頼る工夫をしてみよう。家の窓で2カ所、開けると風通しが良くなる組み合わせを探してみてほしいという。
「私もいろいろ試しましたが、開ける窓によって風の入り方が大きく違ってきます。ティッシュを1枚持って、風による揺れ具合を見てみると、どの組み合わせが良いかわかりやすいと思います」(矢野さん)
ほかにも、部屋にいる人数が多ければ扇風機やサーキュレーターで全体に冷たい空気を行きわたらせる必要があるが、「1人や2人なら、人がいるあたりにエアコンの冷気が直接届くように風向きを調整すれば十分」と言う。
■朝食と夕食で別々のカゴ
冷蔵庫は、冷気が逃げないように開けている時間を減らすことが重要。矢野さんはおかずや食材を、朝食用と夕食用で別々のカゴにまとめて冷蔵庫に入れている。
「お子さんですとか、冷蔵庫を開けてからどこに何があるか庫内を探す方もいると思います。こういうものが欲しければこのカゴを取り出して、と家族で共有しておけば、カゴを取り出す作業だけで済み、開けている時間を短縮できます」
照明は、前述したように白熱球をLEDランプに変えるだけでも大きな効果を得られる。また、消し忘れが多い場合は、人が来た時だけ点灯する「人感センサー付き電球」の購入を考えるのも一手だ。
■新電力「乗り換え」も一手
新電力への乗り換えについては、矢野さんは「一度は検討してみる価値あり」とする。矢野さんが検討対象として挙げるのは「セット割」だ。
「携帯電話会社やガス会社、ガソリンスタンドなど、すでに家庭での支出が大きいものと電気をセットにすることで、割り引きになる場合があります。調べてみてお得であれば、今からでも乗り換えて良いと思います。ただ、撤退する事業者も増えており、リスクがあることは忘れないでください」
また、電力会社と最大アンペア数のプランで契約している場合、一つ下のプランにすれば月に数百円の節約ができる。アンペア数での契約を採用していない電力会社もあるため、まずは契約内容の確認が必要だが、同時に使う可能性がある家電のアンペア数を合計して、余裕があれば切り替えてもいい。
では、思い切って省エネ性能の高い家電へ買い替えるのはどうか。
環境省はホームページで、新旧の家電の省エネ性能を比較し、節約できる電気料金の目安もわかる「しんきゅうさん」を運用している。
ただ、矢野さんはこう指摘する。
「最近の家電は、価格が昔とは比べものにならないくらい高い製品があります。電気料金の節約には優れていても、購入金額を考えた場合、10年、15年と使って元が取れるかどうか。元を取るという考えを持たない方がいいと思うこともあります。節約できる電気料金と購入価格を考え、冷静に判断する必要があると思います」
電気料金を節約する省エネは、家計だけではなく地球にも優しい。まずは行動だ。(AERAdot.編集部・國府田英之)