日本を震撼させた安倍元首相銃撃事件。背景には、山上徹也容疑者の母親の新興宗教への献金による家庭の経済的困窮がある。日本社会の課題として、家族頼みの「家族主義」の強さが浮かび上がってきた。AERA 2022年8月1日号の記事から。

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 生活困窮者を中心に支援活動を行うNPO法人ほっとプラス理事の藤田孝典さんは、「山上徹也容疑者は氷山の一角だ」と話す。

「私たちが受ける相談でも、ある20代の女性は家族が新興宗教に入信したことで家族崩壊して大学にも行けず性風俗店を転々としていたり、ある10代の女性は山上容疑者と同様、父親の死後に母親が新興宗教に入信、寄付で貧困に陥った結果、家出や刑事事件を経るなどして生活保護を受けていたり。新興宗教に限らず、家族がアルコールやギャンブル依存症などで養育の義務を果たせず貧困へ、といった事例は山積しています」

 これらについて、藤田さんは日本の社会のある課題を指摘する。「家族以外の、福祉や社会保障などのセーフティーネットが極めて弱い」ことだ。

 たとえば、教育。出身家庭の財力や資力と、子どもの学歴とは連動する。家庭が貧しければ、中学卒、高校卒にならざるをえない。伯父が報道陣に語ったところによれば、山上容疑者の母親は1991年に入信して献金を始め、容疑者が高校を卒業した99年には奈良市内の2カ所の土地を売却して寄付に充てた。総計は1億円に上る。

「本来払うべき教育費の方に回せないという点一つをとっても、彼の家族は機能不全だった。ただ、そういう『親がきちんと子どもに向き合えていない』環境であっても、日本の社会は『家族頼み』。これがいちばんの課題なんです」

 もはや子どもが家族を頼れない。そんなときに大学の学費無償化や、中高を卒業した後に住宅手当を支給して一人暮らしの負担を軽減するなど、「機能していない家族と“別れられる”福祉や社会保障のシステム整備」が急務だと藤田さんは言う。

「1960年代の高度経済成長期以降、正社員で終身雇用のお父さんが一生懸命に働けば家族全員が何とか暮らせていた。いわば『家族主義』で何とかなった時代、国の社会保障負担は極めて少ない部分で済んでいた。けれども、そんな家族主義は実質、2000年以降機能していません。そこを転換するのが安倍元首相をはじめとする政治家らの仕事だったのに、とは思います」

 日本社会の「家族主義」という落とし穴について、社会学者の土井隆義・筑波大学教授もこう話す。

「『自助、共助、公助』が象徴的ですが、自己責任主義が進み、共助の狭い部分である家族にも強さを求める傾向が確かにあると思います。こども庁が反対意見を経て『こども家庭庁』になった背景にも、家族という存在への過剰な依存があるでしょう。家族に責任を押しつけるから、その中でうまくいかなくなったときに逃げ場がない。そんな構図は今回の事件にも見受けられると思います」

(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2022年8月1日号より抜粋