早い梅雨明け以降も活発な前線の影響などで線状降水帯が発生し、各地で被害が出ている。2年前の7月も、熊本県南部を襲った記録的集中豪雨で、死者・行方不明者は69人にのぼった。人気アニメの聖地としても知られ、復興を望むファンも多い。あれから2度目の夏を迎えた人吉市と球磨村の被災現場を歩いた。

 最初に足を運んだのは、2008年6月に本殿、楼門などが国宝に指定された人吉市の青井阿蘇神社。氾濫(はんらん)した球磨川から150メートルほどしか離れていない。

「泥水は本殿の床上50センチまで浸水しました。記録上初めてで、神職の装束や資料、古くから伝わる77振りの御神刀などもすっかり水浸しになりました」

 こう振り返るのは、第80代宮司・福川義文さんだ。

「社殿の復旧、修復はほぼ終えることができました。国宝指定10周年記念事業である国宝記念館の建築をスタートさせており、来春にはお披露目したい」(福川宮司)

 記念館の設計は、新国立競技場を手がけた隈研吾氏。ギャラリーや社務所を併設する予定だ。

「記念館建設と刀剣修復費用の一部をクラウドファンディングで募ったところ、ともに目標を超えました。特に刀剣は、目標金額500万円のところ総額約3549万円。感謝しかありません」(同)

 JR人吉駅は肥薩線が運休中のため他路線の乗車券販売はしているが、改札は閉まったままだった。人吉市は「肥薩線は、SL人吉をはじめとする観光列車で当地域に入り、温泉や観光名所、球磨川下りを楽しむ観光ルートとなっていました。地域としましては、豪雨災害からの復旧・復興にはJR肥薩線の復旧が必要不可欠」(復興政策部・竹内課長)と完全再開を目指すという。

 難題は復旧費用と、その後、だ。

 JR九州の試算では全線復旧に約235億円が必要。これを、災害復旧と治水を名目とした公共事業や復旧支援の補助金、さらに国と地元自治体の支援等で23億円前後に圧縮する方向で動いている。だが、新型コロナの影響で売り上げが低迷している同社にとって負担は大きい。

 しかも「肥薩線の八代−人吉間は18年度で5億7300万円の営業赤字」(JR九州)。それだけに「JRの本音は廃線。小型バスによる部分的な代行運行」と、ある鉄道雑誌記者は言い切る。

 人吉市は温泉地としても有名だ。本格的な温泉旅館は、1910年に開業した翠嵐楼(すいらんろう)が最初とされる。しかし同館もまた、被害が大きく、現在も休業している。

「浸水は高さ4・8メートル。2階にまで及び、ここまで来るのか?とがくぜんとしました。というのは、1965年7月3日の水害の教訓で、1983年に建物を新築した際に地盤を2・5メートルかさ上げしていたからです」(川野精一社長)

 現在、建築物の強度を支える骨組みの部分をそのままにして、内部をリフォームしている。2階の100畳大広間はオープンカウンター付きのダイニングに生まれ変わる。

「創業以来、湧き続けている地階の『御影の湯』も内装工事中です。12月中の再開を目指していますので、ぜひお越しください」(同)。

 翠嵐楼から球磨川沿いに4キロほど下った球磨村渡地区。70人の入居者中、14人の高齢者が犠牲になった養護老人ホーム「千寿園」が、川から300メートルほど離れた渡小学校の北側にあったが、昨年9月に解体されて今は雑草だらけの更地になっていた。

「被災地の最大の問題は、過疎化に拍車がかかったこと」

 こう話すのは地元紙の記者だ。

「特に球磨村は、2019年の人口は3648人でしたが、水害直後の21年10月は3103人と一気に減り、22年7月現在は3055人。3千人を切るのは時間の問題で、自治体としての存続も厳しい。同様に、漸減傾向にある人吉市も流出が止まりません。水害前の20年6月に3万1932人でしたが、先月末時点で3万904人です。だからこそ、観光や地場産業の復興が急務なんです」(同記者)

 明るい話題もある。100年以上の歴史を誇る球磨川の川下りの再開だ。

「ラフティングは昨年7月に再開しており、川下りは2年ぶりにこの7月22日から再スタートを切ります。市内下新町の川下り発船場は観光複合施設『HASSENBA』にリノベーションしました。復興のシンボルになればいいなと思っています」(第三セクター・球磨川くだり)

 一方、人吉市を中心とする人吉盆地は、アニメ化もされている人気コミック『夏目友人帳』の舞台となっている他、家庭ゲーム『まいてつ』、アニメ『レヱル・ロマネスク』の“聖地”も点在。ファンが全国からやってくる。

『レヱル』に実名で登場する人吉駅前のカフェ『亜麻色』の田中治子ママがこう言う。

「新型コロナで半減したお客様が水害でさらに減り、電車は止まったまま。何度もやめようと思いました。でもファンの人たちの『頑張って!』に支えられて今があるんです」

 駅前では昨年7月にオープンしたラーメン店「田舎らーめん」にも注目したい。同店は栗弁当で知られた人吉駅弁やまぐちが経営しているが、クラウドファンディングで開業資金の一部を募った。

「出汁をとるのに熊本の地鶏『天草大王』のガラを使っている他、素材はほとんど地元産。あえて豚骨ベースでないスッキリした風味に仕上げています。経営は厳しいですが、駅前の灯りを消すわけにはいきません」(店長の永田義勝さん)。

 2年目の夏。被災地の奮闘は続く。

(高鍬真之)

※週刊朝日オンライン限定記事