黄葉の見物客でにぎわう東京・明治神宮外苑のイチョウ並木の一部が枯れかけている。 周辺では再開発計画が進む。このままではさらに枯れると、専門家は指摘する。2022年12月5日号の記事を紹介する。

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 明治神宮外苑ではイチョウ並木の黄葉を目当てに多くの人が散策していた。実は、この並木に異変が起きている。近くに住む北青山一丁目住宅自治会長の近藤良夫さんが証言する。

「今年夏、1本が枯れ始めたのに気づきました。その後、2本、3本と傷んだ木が増えました」

 並木146本の生育状況を調査した日本イコモス国内委員会によると、幹や枝が枯れるなどしている木が6本ある。4段階評価で、1本は最低のD評価「著しく枯損」、5本はC評価「要注意」だった。「著しく枯損」の木は下半分に葉が付いているが、上半分は全くない。記者も9月に確認した。日本イコモス国内委員会の石川幹子教授(中央大学研究開発機構)はこう述べる。

■近くの建物の影響かも

「この木は美しい形を保つことができなくなるでしょう。そこまで追い込まれています」

 葉を付ける下部を守るために枯れた上部を切らなければいけない状態だという。弱った幹や枝が折れて落下する危険もある。他の5本も一部に葉が付かず枯れている。また、付いている葉も小さい。太い枝が伸びるべきところの枝も細い。

 さまざまな原因が考えられる。今年は梅雨時期の雨が少なく夏は暑かった。「著しく枯損」の木は根元まで舗装され排水のための傾斜があることで根が水分を十分に吸収できず、上部まで行きわたっていないとみられる。傷んだ6本はすべて西側だ。

「近くにテニス場や建物があることが影響しているかもしれません」(石川教授)

 並木周辺では再開発計画が進み、並木がさらに枯れるのではという懸念もある。神宮球場が弱った木の隣に新設される予定なのだ。石川教授は言う。

「事業者はイチョウ並木と8メートル離すとしていますが、計画を見ると、もっと近く、木から5メートルほどの場所にバックネットが建てられます」

 バックネットはイチョウと同程度の高さ約25メートル。日当たりや風通しが悪くなる。工事では建物下の地中に深さ約40メートルの杭が打たれる。枝が大幅に剪定(せんてい)されて樹形が変わり、地下水の供給が損なわれる恐れもある。

「新しい神宮球場の近くのイチョウ1列は衰退し、なくなってしまうでしょう」(石川教授)

 共同で調査をした樹木学者、東京農業大学の濱野周泰(ちかやす)客員教授はこう心配する。

「イチョウ並木は植えられて100年以上たちますが、通常イチョウは数百年も生きます。何らかのストレスを受けていると考えられます。『著しく枯損』の1本は美しい姿に戻るかわかりませんが、戻るとしても100年単位の時間がかかります」

 都の環境影響評価審議会では委員から「構造物をつくったり、工事をしたりすると影響が表れるのでは」などの懸念が示されていた。都環境局アセスメント担当課の担当者はこう述べた。

「事業者は再開発するのであれば、木の状況をより正確に把握し、工事の設計や施行の計画に反映させていくことが必要」

■「枯損と言い切れない」

 事業者の三井不動産はこうコメントした。

「イチョウの所有者の明治神宮によると、イチョウ並木のうち数本は、他と比べて落葉時期が早いという異変を2019年11月から確認しているとのこと」

 あくまで落葉の時期が早いとの見解だ。

「指摘のあったイチョウは22年も春先から先端まで新芽がでて葉が生育している状況を踏まえると、他のイチョウと比べ落葉が早い状態ではあるものの、現状枯損している状態とは言い切れないという樹木医の見解をもらっている」

「今回の計画により生育に支障がないよう詳細な根系調査を行う予定。支障がある場合は工法や施設計画等を含めて検討し、保全していく」

 美しい姿を未来に残してほしい。

(編集部・井上有紀子)

※AERA 2022年12月5日号