
猛暑が過ぎて秋の気配が見えてきたが、実は秋は食中毒が多い季節だ。弁当を持って行楽に出かける時期であるほか、10月は旬を迎えた魚を食べる機会も増えることから、魚の寄生虫「アニサキス」による食中毒が多いのだ。胃壁に突き刺さって激しく痛むほか、アレルギー症状も発症するアニサキス。どう予防すればいいのか。
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アニサキスは線虫の一種。体長2〜3cm、幅は0.5〜1mmほどで、白い糸のように見える。食中毒の「アニサキス症」は、主に魚の体内にいる生きたアニサキスを食べてしまうことで発生する。刺身を食べる日本人は、特にリスクが高いと言える。
アニサキスに詳しい東京海洋大学の嶋倉邦嘉准教授によると、アニサキスの成虫はイルカやクジラなどの海洋哺乳類に宿る。その卵は海中で孵化し、オキアミなどに食べられて「第3期幼虫」と呼ばれる姿になる。このオキアミを魚などが食べ、魚の腹腔内に入る。その魚が死ぬと、筋肉に入り込むこともある。
さらにその魚を人間が食べると、胃液では死なず、胃壁や腸壁に潜入して動き回り、激しい腹痛や嘔吐などの症状を引き起こすのだ。
アニサキスは150種類以上の魚に寄生するとされている。嶋倉准教授は、
「どんな海産魚にもいる可能性があると注意しつつ、さらに、寄生する確率が高い魚を知っておくことが重要です」
と指摘する。

■気をつけるのはサバ以外も
嶋倉准教授によると、過去5年間でアニサキスによる食中毒は2096件あったが、発生原因となった魚はサバ類が330件と圧倒的に多い。続いてカツオ(106件)、アジ類(78件)、イワシ類(53件)、サンマ(41件)、ヒラメ(37件)、ブリ(29件)、サケ(20件)となっている。
いわゆる「光り物」が目立つ印象だが、このほかの魚やイカでも発生しており、
「季節を問わず注意が必要です。すべてが報告されているとは考えづらく、発生件数ももっと多いと考えられます」
と嶋倉准教授は補足する。

それでは、安全に刺し身を食べるためにはどうすればいいのか。
アニサキスは、魚をマイナス20度で24時間以上冷凍するか、十分に加熱することで死ぬ。
また、アニサキスがいないか目視で確認するほか、自身で魚を釣った場合はすばやく内臓を取り除くことも有効だという。

嶋倉准教授も大の刺身好きで、魚を自らさばくこともあるそうだが、イサキやキンメダイなど、薄造りでも美味しい魚は薄く切って、アニサキスが見つかりやすいように工夫しているという。
ちなみに「ワサビなどの薬味や酢で、アニサキスが死ぬことはない」(嶋倉准教授)そうだ。

■知られていない「アレルギー」
また、あまり知られていないが、アニサキスの生死に関係なく、その分泌物も含めてアレルギーを引き起こすことがある。
食べた後にじんましんや下痢などの胃腸症状を引き起こすほか、呼吸困難などのアナフィラキシーショックを起こす危険性もある。アニサキスが持つ成分に対する抗体を保有している人は発症する可能性があり、怖い存在だ。
アニサキスによる食中毒が劇症化する事例では、アレルギーも併発している可能性があるという。
「魚を刺身やたたきなどで味わうことを好む日本人の食文化を考えると、アニサキスアレルギーをもっと知ってもらう必要があると思います」
と、嶋倉准教授。例えばサバのアレルギーだと思われていた患者を検査すると、アニサキスアレルギーだったという報告もあるという。
「魚を食べると、たまにじんましんなどの症状が出る人は、医療機関で検査をしたほうがいいかもしれません」
生魚を食べるわれわれには身近な厄介者の存在を、しっかりと知っておきたい。
(AERA dot.編集部・國府田英之)