「新年祝賀の儀」で初めてティアラを着用した天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=24年1月1日午後0時3分、皇居・宮殿「松の間」、代表撮影

 1月19日に行われた新春恒例の皇室行事「歌会始の儀」で披講された雅子さまの御歌に、天皇、皇后両陛下の長女、愛子さまを指す「吾子(あこ)」が出てきたのは話題になった。雅子さまの御歌の題材となった愛子さまの作文を改めて読むと、プロもうなる筆力だった。

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「歌会始の儀」は、一般応募の1万5270首から選ばれた入選者10人から朗詠が始まり、選者代表や召人、高円宮家の長女・承子さま、秋篠宮妃紀子さま、秋篠宮さま、雅子さま、天皇陛下の順に披露された。

 雅子さまの御歌は、

【広島を はじめて訪(と)ひて 平和への 深き念(おも)ひを 吾子(あこ)は綴れり】

「吾子」とは「わが子。自分の子。」の意味で、天皇、皇后両陛下の長女、愛子さまのことで、愛子さまが「綴れり」は、学習院女子中等科の卒業文集の作文のことを指している。

「歌会始の儀」を終えた天皇、皇后両陛下=2024年1月19日、皇居・宮殿「松の間」、代表撮影

 愛子さまは、学習院女子中等科3年生の5月に修学旅行で広島を訪れた。原爆ドームや平和記念資料館の展示をご覧になり、平和の大切さを肌で感じられたそうだ。

 そのとき感じた平和への願いを、中学の卒業文集につづられた。雅子さまは、平和の大切さが愛子さまの世代、そしてさらにその次の世代へと将来にわたり受け継がれていくことを願われて、この御歌を詠まれた。

 今年のお題は「和」で、和を用いた言葉として「平和」を用いた歌は、一般応募の中にもたくさんあったのではないかと想像できる。

宮内庁書陵部所蔵の古典籍である「むし双六(すご・ろく)の和歌」を鑑賞する天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=23年11月24日、皇居内の同庁書陵部庁舎、宮内庁提供

 しかし、「平和」という言葉を選んだとしても、題材は2016年5月のことを綴った愛子さまの作文で、ずいぶん前のものを引っ張り出してきた感じがした。当時の愛子さまの作文全文を改めて読んでみると、雅子さまがこの御歌を詠んだ思いがさらに伝わってくる。

 愛子さまの作文に「すごくよく書けていると思います。まさに心に響く作文です」とは、これまでに3000人以上の作文の指導をしてきた「あおぞら作文教室」塾長の眞野玲子氏。

■愛子さまの作文は「空」から始まる

 愛子さまの作文は「日常」から入る。冒頭はこんな感じだ。

【卒業をひかえた冬の朝、急ぎ足で学校の門をくぐり、ふと空を見上げた。雲一つない澄み渡った空がそこにあった。家族に見守られ、毎日学校で学べること、友達が待っていてくれること…なんて幸せなのだろう。なんて平和なのだろう。青い空を見て、そんなことを心の中でつぶやいた。このように私の意識が大きく変わったのは、中三の五月に修学旅行で広島を訪れてからである。】

 この冒頭に眞野氏は、こう話す。

「空という情景から入って、後半で【何気なく見た青い空。しかし、空が青いのは当たり前ではない。】と綴り、また、空に戻しています。相当な筆力があり、このまま雑誌などに掲載してもおかしくない作文ですね。

 心に響く作文の特徴としてあげられるのは、具体的な話がしっかり入っていること。愛子さまのこの作文には、自分自身に関する具体的な話がしっかり入っています。また、広島に実際に訪問されて感じたことを書かれていてルポルタージュな要素もあります。

 私たちのような者からの添削指導のアドバイスがあって、結果、こういう作品に仕上がったというレベルの作文です」

 プロもうなる作文だ。その他、随所に「うまいな」と思うところが詰まっているという。

「私は文章の中に“対比”を入れるようによく指導しています。愛子さまのこの作文には、“平和・戦争”、“過去・現在”、“日本・アメリカ”などが盛り込まれています。

また、【オバマ大統領も広島を訪問され、「共に、平和を広め、核兵器のない世界を追求する勇気を持とう」と説いた。】と綴り、オバマ大統領の話も入れていますが、自分の私的な感情だけで話をまとめていない」

 作文の技巧的なところをあげたらきりがないが、ただの感想文になっていないところから、愛子さまの「平和を願う」思いが強く心に響いてくる。

「広島の原爆ドームや平和記念公園に行って、感想文を書くというのはよくあることかと思います。子どもの感想は、“悲しいことだと思った”“かわいそうだと思った”“私だったら耐えられないと思った”など、“〜思った”になりがちなんですね。愛子さまの作文はそれを超越しています。

 天皇陛下はもちろん、雅子さまも優秀な方ですので、愛子さまも本をたくさん読まれたり、論理的な思考を積み重ねていくような育ち方をされたのではないでしょうか」

 愛子さまは、平和への思いをこう綴っている。

【平和を願わない人はいない。だから、私たちは度々「平和」「平和」と口に出して言う。しかし、世界の平和の実現は容易ではない。今でも世界の各地で紛争に苦しむ人々が大勢いる。では、どうやって平和を実現したらよいだろうか。】

 2016年の作文だが、いま読んでも日本の、そして世界の平和を考えさせられる。今年の2月24日で2年となるロシアによるウクライナへの軍事侵攻、昨年10月に勃発したイスラエル軍とパレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘――いまも多数の民間人に犠牲者が出ており、戦禍が広がり、その終わりは見えない。

 愛子さまは平和への願いを、自分の言葉で力強く締めくくる。

【そして、唯一の被爆国に生まれた私たち日本人は、自分の目で見て、感じたことを世界に広く発信していく必要があると思う。「平和」は、人任せにするのではなく、一人ひとりの思いや責任ある行動で築きあげていくものだから。】

 愛子さまの平和への願いの作文を受けて、雅子さまが詠んだ御歌が、さらに深く心にしみる。愛子さまは、大学卒業後、日本赤十字社に内定しているが、日赤でも「平和」を胸にご活躍が期待される。(AERA dot.編集部・太田裕子)

愛子さまが学習院女子中等科の卒業文集に寄せた作文(※全文を画像にしたものです)