韓国の無人ラーメン店の店内(写真はいずれもノ・ミンハ撮影)

 韓国では最近、店員のいない「無人ショップ」が拡大している。昔から関心はあったようだが、日本で無人コンビニができたという話が韓国内のニュースとして取り上げられていた。現在は様々な種類の無人店舗が次々と出ており、逆に日本のSNSで話題になっている様子も。独自の進化を続ける韓国の無人店舗だが、その「副作用」も出始めてる。

 外国人観光客に人気が高いソウルの聖水洞(ソンスドン)通り。この近くに人の目を引くワインショップがある。入り口でまず年齢認証し、スマートフォンをかざして成人であることを証明するとドアが開く。店に入ると、40種類ものワインが入ったガラスのショーケースが目の前に現れる。ショーケースの中央にあるモニターでワインの写真をクリックすると、ワインの名前や味、価格などの情報が出てくる。ワインによっては若干の試飲をし、購入することもできる。

聖水洞の近くにある無人ワインショップ。 スマートフォンで成人認証をして購買が可能になる

■変化は文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に

 この店には店員がいない。入場から商品探し、決済まで、すべて自分で行う「無人ワインショップ」だ。決済後、手にすることができるワインボトルを自分でとりにいく。店にはつまみも売られている。買う方法はワインと同じ。日本にある自販機ショップのワイン版と思うかもしれないが、ここは店内では飲食が可能なのだ。

 夕方に訪れると、数人の若者客がいた。彼らは戸惑う様子もなくワイン選びから決済までスムーズに済ませていた。ワインを包装して持っていく人もいる。しかしその場でワインを開け、つまみを並べ、勝手にワインパーティーを開くグループも少なくない。

モニターを通して製品情報取得と注文、決済までできる。 注文前に自分で試飲することも。テーブルでワインを飲むのはもちろん、おつまみを 食べることもできる。

 実は、無人ショップのはじまりは日本からだった。10年ほど前、日本で無人コンビニとスーパーができたという話題が韓国のテレビニュースになるほどだった。それほど韓国では無人ショップになじみがなかった。無人ショップは、せいぜいコインランドリーやコインカラオケくらいだった。

 ところが、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に空気が変わった。

 政府が最低賃金の引き上げを主導し、人件費の負担が高まったのだ。文政権直前の2016年は法定最低時給が約6千ウォン(約676円)だったが、2023年には9620ウォン(約1084円)まで上がった。人件費が店舗経営を圧迫し、ファストフードやカフェを中心に「キオスク」というセルフ決済機が導入された。そして、その流れは加速して他業種に広がり、さらに日本を追い抜くような勢いでユニーク無人ショップ展開にたどり着いている。

「若者の街」と呼ばれる弘大には、無人ラーメン店が出現した。外からはどこにでもあるコンビニに見えるが、店内に入ると目を疑う。並んでいるのは数多くのインスタントラーメン。製品を自分で決済して買うだけではない。

弘大入口の近く。コンビニチェーンが展開する無人ラーメン店「ラーメン製作所」
無人ラーメン店には様々な種類のラーメンがそろっている。なかには日本語で書かれた品名のものもあった
メニュー選びをして調理もする

■無人店でイートイン、トッピングまで

 麺と具を器に入れ、調理機に置き、スイッチを押すと自動でお湯が注がれる。その後、自動でIHヒーターが作動し、麺が煮込まれる。スイッチが切れたら、別途で購入したキムチ、ネギなども混ぜ合わせて、店内にあるラーメン模様のテーブルで食事ができる。ここまではコンビニのイートインコーナーのラーメン専門店の趣だが、韓国はそこでは終わらず、キムチ、ねぎ、チーズ、ハムなどの具のトッピングまで突き進んでいる。

 筆者もラーメンを作って食べてみた。好みのキムチとツナ缶詰のトッピングを別途購入し、自分だけのラーメンを作った。店員がいないから実に気楽。他の客の視線を気にせずにすすることができる。この無人店はSNSで有名になった。外国人観光客たちは、自分流ラーメンをつくって写真を撮っていた。日本人観光客も来るためか、日本語の案内まであった。

 無人ラーメンショップは弘大だけでなく、ワンルームマンションが密集している地域や、若者が訪れるエリアを中心に広がっている。インターネットコミュニティーでは、「家の近くに無人ラーメンショップができたので行ってみたい」という投稿をよく見かける。

 無人店舗はほかにも、カフェ、チキン、トッポッキ(餅を甘辛く味付け)といった飲食系から、写真館や文房具、衣類といった日用品などが登場している。日本よりはるかにバリエーションは広い。

弘大入口にある無人写真館。 通常の写真だけでなく、プロフィール写真、履歴書写真などを撮影し、印刷までひとりでできる

 韓国の場合、自分で調理するというのが出色で、無人トッポッキ店では自分で温めて、好みで卵やねぎ、ラーメン、チーズ、天ぷらなどのトッピングを購入して作る。チキン店では、自分でチキンを揚げる。

弘大入口駅の周辺にあるロッテリアの無人店
注文後、ピックアップは領収書のバーコードを読み取らせ、ピックアップボックスから受け取る

 独自の進化を遂げる韓国無人ショップだが、一方でこれが社会的問題を引き起こしている。

 韓国で無人ショップが広がった理由のひとつに治安のよさがあった。ソウルを含む首都圏には随所に監視カメラが設置されている。犯罪が発生しても容疑者の検挙率がかなり高く、重大犯罪発生件数が過去に比べて大幅に減った。この状況が、オーナーたちに無人ショップ開設を踏み切らせたという面はある。しかし、いくら治安がいいとはいえ、無人である。どうしても窃盗など犯罪のターゲットになりやすい。

■狙われた無人写真館の撮影ブース

 2月10日は韓国の旧正月にあたり連休だった。この時期に済州島(チェジュド)では、10代の少年4人が警察に逮捕された。彼らはマスクを着けてヘルメットをかぶり、無人ショップ7カ所で罪を犯した。商品を盗むだけでなく、セルフ決済機を破壊し、中に入っていた現金を持ち去ったという。

 1月末には仁川市にある無人アイスクリームショップで商品を盗み続けていた小学生が逮捕された。被害額は19万ウォン(約2万1400円)相当にもなったという。無人ショップでの窃盗犯の大半は少年だ。刑事処罰を受けない年齢であることが多い。監視カメラを設置しても、店員が現場で管理していないため、立件に限界がある場合もあるという。

 無人ショップが性犯罪に使われた事件も発生している。昨年9月、弘大の無人写真館で、酒に酔って寝ていたある女性が被害に遭った。無人写真館には撮影ブースが設置されている。犯人はそこで犯行に及んだ。結局、容疑者は犯行から12時間後に逮捕され、懲役5年を宣告された。

 オーナーが犯罪に遭うこともある。昨年2月には江原道の無人ショップで、グミなどのお菓子を盗んで逃走した20代の男性をオーナーがたまたま目撃。追いかけたオーナーが暴行に遭い、首を絞められて20日間の重傷を負った。容疑者が盗んだのは3500ウォン(約390円)の商品だ。普段から無人ショップでよく盗んでいたという。

 無人ショップは「高齢者に優しくない」という欠点もある。商品探しから決済まですべて自分でしなければならない。店員に言えば商品を探してもらえて、支払い方法まで教えてもらっていた彼らにとって、無人ショップのハードルは高い。

 無人ショップが若年層と老人層の間の格差を誘発し、老人層に疎外感を与える副作用がすでに発生している。

ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト)