東京カウンセリングオフィス・関本文博所長/せきもと・ふみひろ 臨床心理士・公認心理師。精神科・心療内科クリニック勤務を経て2021年に東京カウンセリングオフィスを開業(photo 本人提供)

 近年注目されつつある「職場の孤独」。東京カウンセリングオフィスの関本文博所長に、心身へのリスクや孤独に陥りやすいタイプ、対処法などを聞いた。

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 「職場の孤独」は心身のリスクに直結することに留意が必要だ。

「同僚のサポートを得られないことがストレスや心身の不調につながり、ひいては死亡率が高くなることも近年の研究で判明しています。つまり、職場で孤独を感じている人は、その後の寿命が短くなるほどの深刻なダメージを受けるということです」

 こう話すのは、東京カウンセリングオフィス(東京都千代田区)所長で臨床心理士・公認心理師の関本文博さん(40)だ。

 職場の孤独を放置すると、適応障害やうつ、ひいては早死ににつながるというのだ。どういうことなのか、順に説明してもらった。

■孤独な人ほど病気になりやすい

 まず、最も多いのはうつ症状。孤独感が抑うつ状態を引き起こす、というのは腑に落ちる。もう一つ、最近注目されているのが「免疫機能の低下」だ。

「孤独な人ほど病気の治りが遅く、風邪などもひきやすくなります。新型コロナの後遺症が長引いたり、重篤化したりするのも免疫機能の低下が要因の一つです」(関本さん)

 孤独が引き起こす心身への影響で命の危険に直結するのが心疾患だという。

「過労の人が心臓発作を起こしやすいことは昔から言われていますが、強い孤独を感じている人も心臓の負担を受けやすいことが分かっています」(同)

「無視される」など職場で孤立すると、人間は脳で「社会的痛み」を認知する。これは単なるイメージではなく、実際に「身体的な痛みとして感じる」のだという。

■ジョブ型雇用の定着も一因

「職場の孤独」の近年の傾向や特徴はどうなのか。

 関本さんのもとに相談に訪れるのは、職場に行けなくなり休職した人がほとんど。社会人経験の浅い20〜30代前半が主だという。中でも多いのは「異動」が契機になるパターンだ。

 例えば、外回りの多い営業職で事務アシスタントもいて、チーム内で密なコミュニケーションを取り合う環境にいた人が、異動で内勤になって終日パソコンと向き合い、同僚ともほとんど会話をしない状況に置かれると孤独感が募る。

 また、「終日パソコンと向き合う仕事」の課題について関本さんはこう指摘する。

「チームではなく、個人で完結するノルマやタスクをこなす業務の場合、同じ部署で机を並べている同僚にも助けを求めたり、困りごとを共有したりしにくくなります。そうなると、仕事がはかどらないのはすべて自分の責任だと感じ、孤独が深まる傾向があります」

 こうした人が目立ち始めたのは、2020年前後にジョブ型雇用が広がった時期と重なるという。

 コロナ禍以降は別の要素も加わった。オンライン会議の普及だ。部内会議だと、参加者全員がカメラをオフにしていることが少なくない。以前から同じ部署にいる人どうしであれば、カメラをオフにしていても会話の間合いや相手の表情も思い浮かべることができる。しかし、異動してきたばかりの人はカメラがオフだと相手の顔や年齢すらよく分からない。この「把握感」が得られないモヤモヤを抱えた状態では、いつまでたってもチームになじめない。かといって、自分だけカメラをオンにするのは浮いてしまうし気がひける。

「そうなると異動したばかりで、かつ社内のネットワークや関係づくりの蓄積が少ない30代前半より若い人を中心に孤独感から抜けられず休職に至る、というケースが典型例として相次ぐことになります」(関本さん)

社員食堂でひとりで昼食をとる。周囲に人はいるのに、孤独感に襲われる’(photo 写真映像部)

■「おはようございます」を目にしただけで

 職場で孤独感が募った人は、どのような初期症状に見舞われるのか。

 よく見られるのが、「パソコンを開くのがつらくなる」ケース。リモート勤務の場合は特に、仕事を始めるにはまずパソコンを開いて起動する必要があるが、その動作そのものがつらくなる。これは、先述の孤独感からくる「心の痛み」によって身体的な痛みが生じるためだと関本さんは言う。

「何とかパソコンを開くことはできても、例えばテキストメッセージで『おはようございます』という文字を目にしただけで、職場での孤独を想起して忌避感が強まるのに伴い身体的な痛みが生じます」

 この忌避感は、日曜日の夕方に月曜の出勤を思い浮かべて憂鬱な気持ちになる「サザエさん症候群」と似た心理状態だという。

「こういう忌避感情と同時に身体的な痛みを感じるようになれば、基本的には『職場の孤独』が原因である可能性が高い、と自覚したほうがよいでしょう」(関本さん)

■内向型と神経質傾向のある人は要警戒

 どんなタイプが孤独に陥りやすいのか。

 内向型の人と、心理学でいう「神経質傾向」のある人は要警戒だという。

 内向型の人は「自分だったらどう思うだろう」と周囲や相手のことを考えてから行動するため、孤独を和らげる態度や発信をしなくなり、孤独に陥りやすい。「相手を慮る」配慮や慎重さがあだになる、というわけだ。

 さらに内向型の人は、「自分は周囲にこう思われているんじゃないか」とか「悪口を言われているんじゃないか」といったネガティブなイメージを自分の頭の中で膨らませてしまう傾向もあるため、孤独を一層深めてしまう思考回路に陥りやすいという。

 もう一つ、心理学で使われる「神経質傾向」のある人。これは「神経質なタイプ」というのとは違うという。

「どちらかというと『シャイな人』に近いイメージです。内向型とも似て非なるタイプで、繊細で感情に左右されやすい人。こういう人も職場では孤独になりがちです」(同)

 神経質傾向のある人は、他者とかかわることで感情が揺さぶられるのを避けたいと考えるため、リモート勤務か出社勤務かにかかわらず、同僚とのかかわりを減らそうとする傾向が強いという。

「年齢を重ねるほど、どっしりしてくるというか、図太くなっていくため、神経質傾向も年齢が若い人のほうが顕著です。これも社会経験の浅い人ほど職場の孤独感が強くなる要因につながっていると思います」(同)

■管理職に昇進したタイミングも要注意

 一方、社会人経験が長い人でも、管理職に昇進したタイミングは孤独に陥るリスクが高いため注意が必要という。

「これまではスタッフの一人としてフラットに他のメンバーとつながっていればよかったのが、管理職になると、チームマネジメントや人材育成、評価などの役割が求められます。この立場や役割の急変に対応できず、孤独に陥りやすくなります」(同)

「職場の孤独」には組織としてどう対応すればいいのか。関本さんはカギを握るのは「トップの経営者」だという。

 会社の中で最も孤独なのはトップの経営者だ。社員に弱音や本音を吐けないし、かといって他社の経営者仲間と腹を割ってつながるのもなかなか難しい。そんな、孤独のつらさや弊害を肌で知る経営者が、まずは管理職が孤独にならないよう、管理職どうしが部下の育成の悩みを本音で打ち明けられる場を組織づくりの中で設定する。そうすると、組織全体に変化が波及するはずだと、関本さんは唱える。

「孤独を回避するすべを得た管理職は、自分の部署の部下も孤独にならないよう互いにつながれる場をつくろうという意識が働くはずです。施策の効果は上から下に流れやすい面がありますから、まずは経営者が『職場の孤独』と向き合うことが重要です」

(AERA編集部 渡辺豪)