朝鮮半島情勢が緊迫する中、稲田朋美防衛相や防衛省・自衛隊幹部が辞任に追い込まれた。陸上自衛隊の日報問題で、防衛省はかつてない混乱に陥っている。

「稲田大臣、日報の問題もガバナンスの問題。しっかり役所を管理することについては責任がある──」

 閉会中審査が開かれた7月24日の衆院予算委員会で、そう注文をつけたのは最初の質問に立った元防衛相の小野寺五典氏(自民党)だった。それまでは加計(かけ)学園の獣医学部新設への質問に徹していた先輩議員の突然の忠告を、稲田防衛相はきょとんとしながら聞いていた。

●北朝鮮問題が緊迫

 25日には参院に舞台を移したが、2日間の閉会中審査で、稲田氏の表情には疲れがにじみ出ていた。一点を見つめ、感情を失ったような表情で答弁に立つ。それでも自らの言動の正当性を主張し続けた。

「私は一貫して日報を公表すべきという立場だった。報告を受ければ必ず公表すべしという考え。そんな私の政治姿勢とは真逆の隠蔽(いんぺい)をするとか、非公表を了承するということはない」

 ところが閉会中審査の2日後、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を国際社会が警戒していた27日の夜、稲田防衛相は一転して辞任を決意。すでに辞意を固めていた陸自トップの岡部俊哉陸上幕僚長や、事務方トップの黒江哲郎防衛事務次官とともに、事実上の更迭となった。攻撃対象に日本を名指しする北朝鮮の核ミサイル開発が最終局面を迎えたとされる緊張状態の中、防衛省は、事務方と陸自のトップに加え、大臣までもが引責辞任に追い込まれる異常事態となった。

 問題となったのは、国連平和維持活動(PKO)で派遣された南スーダンで昨年7月に「戦闘」があったとする陸自部隊の日報の存在が組織的に隠蔽されたかどうか。それに稲田氏が関与したかどうかだった。

「陸自内では廃棄済み」として不開示とされた日報が、再調査の結果、自衛隊の運用を統括する統合幕僚監部で電子データとして残っていた。さらに陸自にも電子データが保管されていたことが判明。その事実は大臣に報告していたとする陸自側と、報告は受けていないとする稲田氏の間で対立が起きた。

●防衛省内に不信の火種

 事実関係を調査する特別防衛監察を防衛相直轄の防衛監察本部に指示した稲田氏は7月28日、その調査結果を自ら公表。日報について情報公開法の開示義務違反にあたる行為などが陸自にあったとされたが、不開示とする決定に稲田氏の関与は認定されなかった。ただ、陸自内でのデータ保存の報告を受けたかについて「何らかの発言があった可能性は否定できない」と、はっきりしないままになった。

 小野寺氏が予算委で稲田氏に苦言を呈した背景には、こうした泥沼の対立への懸念があった。防衛省で大臣がガバナンスを失うということは、自衛隊に対するシビリアンコントロール(文民統制)が危ぶまれる事態に直結するからだ。軍部の政治介入から民主政治を守るために近代国家の原則とされるのがシビリアンコントロール。ところが東京都議選で自民党への支持の拡大に、防衛省・自衛隊の名前を政治利用するなど、稲田氏はこれまでも防衛相としての資質を疑問視されてきた。こうした稲田氏への不信感が同省内部にはあり、一連のごたごたで火に油を注いだことは否めない。

 単なる「稲田問題」として大臣交代で解決させるには、防衛省内部に禍根を残しすぎた。同省や自衛隊内部に不信の火種を植え付け、シビリアンコントロールに悪影響が出るようなことがあれば、稲田氏を重用してきた安倍晋三首相の求心力低下だけでは済まない深刻な問題になり得る。北東アジア情勢への対応どころか、首相が得意と自負する危機管理でつまずいただけに、内閣改造は“お友達大臣”でなく、資質や実績重視の後任人事ができるかどうかが極めて重要だ。

(編集部・山本大輔)

※AERA 2017年8月7日