ゆっくりとした口調の丁寧さはあっても、安倍晋三首相が約束した「丁寧な説明」とはほど遠い閉会中審査だった。これから先、首相の言葉は国民に届くのか。

 安倍晋三首相が出席した2日間の衆参両院の閉会中審査が終わった。答弁に立った首相側近は「記憶がない」を繰り返し、安倍首相に至っては今年1月20日に至るまで「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園による獣医学部設置の意向を知らなかったと答弁した。

 朝日新聞の首相動静などによると、2013年以降、安倍首相と加計氏は少なくとも16回、ゴルフや食事をともにする仲だ。昨年8〜9月には獣医学部新設に関わる山本有二農林水産相、山本幸三地方創生相が加計氏と会い、獣医学部の話題が出たことも明らかになっている。共産党の小池晃氏は7月25日の参院予算委員会で、声をこう荒らげた。

「関係大臣には獣医学部の新設を伝え、首相だけ伝えなかったというのか。信じろと言われて国民は信じられるか」

●胸をなでおろした

 閉会中審査により、疑惑はむしろ深まったと言える。胸をなでおろした人もいる。作家で哲学者の適菜収(てきなおさむ)さんは、閉会中審査をこう振り返った。

「何の説明もなかったに等しい。内閣改造をしても支持率が劇的に回復することはないでしょう。私自身は改憲派だが、安倍首相によるデタラメな改憲は阻止しなければならない。そういう意味ではよかったのではないか」

 適菜さんは雑誌のコラムなどで安倍首相の発言や政治姿勢を厳しく批判。『安倍でもわかる保守思想入門』『安倍でもわかる政治思想入門』など刺激的なタイトルで自著を世に出した。これまで首相の答弁で印象深いのは、“立法府の長”発言だという。

「(他党の議員に対して)議会の運営ということについて少し勉強していただいたほうがいい。議会については、私は立法府の長であります」(16年5月16日)

 翌日も安倍首相は「立法府の私」と繰り返したが、答弁はその後「行政府」と訂正され、議事録も修正された。

「勉強したほうがいいのは安倍首相。自分の仕事の権限も理解していない人間に、憲法改正などできない」(適菜さん)

●権力縛るのが立憲主義

 13年3月29日には、民主党(当時)の小西洋之参院議員が「芦部信喜さんという憲法学者、ご存じですか」と問い、「私は存じ上げておりません」と安倍首相が答えたことが話題に。

「首相の母校である成蹊大学法学部政治学科の学生をもバカにする発言。芦部は憲法学の第一人者・宮沢俊義の弟子で、有名な憲法学者。あまりに無知が過ぎ、憲法の考え方もおかしい」(同)

 例としてこんな答弁を挙げた。

「憲法が国家権力を縛るものだという考え方はありますが、王権が絶対権力を持っていた時代の考え方であって、今まさに憲法というのは、日本という国の形、そして理想と未来を語るものではないか」(14年2月3日)

 適菜さんは「権力を縛るという立憲主義は保守思想の根幹ですよ」と話し、言葉を継いだ。

「憲法についてまじめに考えているとは思えない。祖父・岸信介元首相宿願の憲法改正をし、歴史に名を残したいだけでしょう」

 都議選の自民惨敗後、仙台市長選でも自公系候補が敗れた。8月の内閣改造を前に、稲田朋美防衛相が辞任するなど政権与党にほころびが目立ってきた。

「確かに安倍首相に政治家としての資質はないが、揶揄することで留飲を下げていても仕方がない。問題は安倍一強を生んだわれわれの社会だ」

 適菜さんは今、ドイツの哲学者ニーチェのこんな言葉をかみしめる必要があると話す。

「人は、治療手段を選んだと信じつつ、憔悴(しょうすい)を早めるものを選ぶ」

 所属議員の不祥事が絶えない自民党のみならず、民進党も蓮舫代表が辞意を表明し、政治の信頼回復が急務だ。改革や規制緩和といった聞こえがいい言葉の果てに何があったのか。いま一度、立ち止まって考えるべきだろう。

(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2017年8月7日