K-POPをはじめとする韓国カルチャーが若者の間でブームとなって久しい。日韓関係改善においても、文化交流の果たす役割に期待する声もあるが、北海商科大学教授(韓国語学)で、国際交流センター長の水野俊平氏はシビアな見方をする。16年間の韓国在住経験があり、『韓国の若者を知りたい』(岩波ジュニア新書)、『庶民たちの朝鮮王朝』(角川選書)などの著書がある水野氏にKPOPの影響を聞いた。



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――韓国のアイドルBTSの世界ツアーが4月末、コロナ禍で「再調整」となったことは日本でもいち早くニュースになりました。それほど韓国カルチャーが日本で浸透しています。

水野氏(以下敬称略):私が勤める北海商科大学でも韓国語の授業はたいへんな人気です。教養科目としてですが、週9時間もの授業を受けられます。そのため学生が全道から殺到している状態です。最近は、要望があって高校にまで教えに行っていました。

――受講生はK-POPファン? 韓国の芸能人が発するSNSを読みたい、話していることを理解したいという気持ちが韓国語を学ぶ大きなモチベーションになっていると多方面から聞きます。

水野:大半はそうでしょう。受講する学生の9割が女子。最近は男子も受講するようになってきています。大学の交換留学の制度には定員の4倍もの応募がありますよ。ハングルを学びたいというのは、日本人ばかりではありません。私は大学院でも教えていますが、その受講生には中国人留学生が多いんですね。半分は単位取得目的、もう半分はKPOPのファンですね。3年ほど前から、韓国に行きたい、韓国で働きたいという10代の若者が増えてきた印象です。

――K-POPの影響は大きいですね。その若者の熱意は、何らかの形で実を結ぶのでしょうか。

水野:実際に韓国企業に就職した学生もいますが、数は少ないです。観光などの業種で韓国とのつながりをもって働くパターンはあります。

 ただね、韓国で働くって、そんなに甘くはありません。旅行で「お客さん」として訪れる分にはいいでしょう。でも冷静に考えて、そこに住んで、一生のキャリアを積むことができますか。韓国は先進国です。そこで通用するようなスキルがないとそもそも就職は難しいですよ。また、能力・実力が同じならば、日本人ではなくて韓国人を採用するでしょう。それは日本でも同じではないでしょうか。

 短期の留学に学生にも、そこまでシビアな現実は語りませんが、最低限、自分の身を守れるようには教えています。昨年は反日運動が盛り上がっている中で、保護者の心配もありましたから。

――若者の間で韓国カルチャーがブームの一方で、今は「嫌韓」も目立つ。この相反する現象をどのようにみていますか。

水野:残念ながら、K-POPファンは「韓国」には興味がないという人がほとんどです。わかりやすく言えば、コスメ、グルメ、イケメン三つの「メ」以外には興味がないのです。韓国の文化や歴史、政治に関心を寄せる人がどれだけいるでしょうか。完全に趣味の領域なのです。

 もちろん、個人の好みを否定するつもりはありません。確かにBTSなどは世界的なアイドルで非常に洗練されています。日本にはそうしたカルチャーがない。だから惹かれるんですね。実力があるので、日本で人気が出るのも当然です。

 しかしながら、「嫌韓」とK-POPファンはお互いの関心事が異なるので、交わることはありません。「嫌韓」は、結果を出しているKPOPの実力も否定したがりますが。とはいえ、特にネット上では、両者はきれいに住み分けができておしまい、それが現実なのだと思います。

――今は、第3次韓流ブームと言われています。最初の韓流ブームといえば、「冬のソナタ」までさかのぼります。当時は友好ムードが醸成されたように思います。日韓関係が悪化する中で、文化の交流に期待を寄せる論調も根強くあります。

水野:かつてのヨン様ブームが、日韓関係に何か影響を与えたでしょうか。芸能活動は「商売」であって、ボランティアではないのです。日韓関係で抱える問題と、カルチャーは次元が違う話なのです。文化と政治が完全に分かれているからこそ、K-POPが流行しているとも言えますね。

 草の根の文化交流でしたら、私自身もずっと続けてきました。妻は韓国人です。韓国には知り合いもたくさんいて、ずいぶんとお世話になりました。日本の大学卒業後に渡韓し、韓国の大学院に進み、16年も現地で暮らしたのです。

 そうした30年に及ぶ韓国との縁を振り返って、私自身の実感からいえば、以前よりも日韓関係はこじれて悪くなっているとしか思えません。今、日韓関係について、日本人と韓国人がお互いにフラットに話題にできる雰囲気は全くありませんよね。

 国際交流は楽しいことばかりではないし、シビアな側面もある。国と国との間に横たわる課題や問題の解決なら、なおさらそうでしょう。これまでのブームの中で、誰もそういう側面を見つめてこなかったんじゃないか、誰も説明してこなかったんじゃないか、と思うのです。

――今後、日韓関係は改善するのでしょうか。

水野:どうでしょうか。今はコロナ禍で両国ともに日韓関係どころではないという感じですが、何も解決していないですよね。いろんな人に「どうなりますか」とよく聞かれますが、「神のみぞ知る」としか言いようがない。日韓関係の改善は、人知の及ぶところではないのです。

 私が留学した30年前には、日本人のほとんどは韓国に何の興味もなく、韓国語を勉強しているというと周囲から「ハングルって何?」と聞かれるような状態でしたから、それと今を比べたら、文化交流はないよりはあった方がいいかもしれません。ただ、私自身は、今の韓流・K-POPブームには過度な期待はしていないのです。

(聞き手・構成/AERA dot.編集部・鎌田倫子)