菅義偉内閣誕生から2カ月が経った。「雪国から出てきた苦労人」「好物はパンケーキ」など、庶民受けするイメージ作りで、支持する理由上位に「人柄」という項目が入る。官房長官時代、内閣のスキャンダル火消し人だった負のイメージは一掃されたかのようだ。



 そんな菅総理のソフトムードに水を差したのが、日本学術会議会員候補の任命拒否問題だ。マスコミや野党から学問の自由の侵害だと強く批判され、再び菅氏の暗いイメージが台頭している。

 そんな菅総理のために日夜国会答弁を書いている官僚たち。任命拒否に至った理由について、菅総理の想定問答に本当のことを書くことが許されれば、彼らは毎日徹夜する必要はないはずだ。

 しかし、「本当のことを言いましょう」と上司に進言する官僚はいない。二けたの官僚が関わったと思われるのに、一人としてマスコミに真相をリークする者も出ない。嘘と隠ぺいの塊のような答弁を官僚のレトリックを駆使して作成するが、次々に論破され、来る日も来る日も同じ作業を強いられる。経緯を記した文書は内閣府に保管されていると加藤勝信官房長官は認めたが、森友学園問題の時のように、官僚たちがその文書の改ざんに追い込まれるのではないかと心配になる。

 官僚がそこまでして菅総理に奉仕するのはなぜか。それは、「辞められない」からである。辞められないから組織の掟に従う以外に選択肢はない。それがたとえ犯罪であるとしても、ということだ。

 もし、官僚の中にいつでも役所を辞められる人がかなりの数いたらどうなるか。不正を働こうとする同僚がいれば、それを止めるだろう。それでもやめなければ、上司に止めるように進言する。その上司も止めなければ、内部告発やマスコミへのリークなどで不正を止めようとするだろう。組織にいられなくなれば辞めればよい。

 しかし、ほとんどの官僚は辞められない。なぜなら、辞めたら、現状の給料をもらえる仕事に就くことは難しいからだ。失うのは現職時の給料だけではない。退職後も保証される天下りによる悠々自適の生活も同時に失う。重大な損失だ。さらに、職場を裏切ったのだから、退職後に霞が関から嫌がらせを受ける可能性が高い。それを心配する民間企業は、その官僚を雇わない。これでは辞められないわけだ。

 そこで菅総理に提案がある。

「いつでも辞められる官僚を増やす」ために、管理職以上のポストは全て公募制とするのだ。そうすれば、実力のある民間人が選ばれる。彼らは、役人を辞めても官僚以上の待遇で民間の仕事に就くことができるから、政治家から無理な注文を受けたり、あるいは組織内で過剰な忖度を強いられたら、それに反対し、ダメなら内部告発をして、辞職することができる。

 そういう人が周囲にたくさんいれば、官僚たちもおかしな忖度や不正行為を働くことはできなくなる。あまりにリスクが高いからだ。全省庁で実施するのが難しければ、新設されるデジタル庁で課長以上を全員公募にすればよい。

 それにより、高レベルの人材を雇えるだけでなく、組織のガバナンスが通常の官庁に比べて飛躍的に高まることになる。一石二鳥。やらない手はないだろう。

※週刊朝日  2020年11月27日号

■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など