新型コロナウイルス終息の切り札と期待されるワクチン接種が始まるが、接種をためらう人がかなりいる。最大の理由は、安全性への疑念だ。
「特例承認」だから、リスクを見落としているのではという不安がある。


 
 そこで、政府の決まり文句は「安全性について十分に理解していただくために、必要な情報を適切に開示し丁寧に説明します」。これは、「正しい情報を与えるから必ず接種しろ」という意味だが、政府は一方で、「ワクチン接種を受けるか受けないかは個人の自由」だとも言う。併せて考えると、国民は「自由だが受けろ」と言われている気がして、さらに混乱する。

 私自身はどうかというと、「新型コロナウイルス感染で死ぬかもしれない。死ななくても苦しそうだし、後遺症もあるようだ。かかっても入院できないかもしれない。そんなリスクを考えれば、副反応リスクはあっても、接種を受けたほうがいい」と考える。政府から見れば、合格点だろう。

 しかし、私はさらにこう考える。「ワクチン接種は個人の自由だ。また、情報は隠すことなくタイムリーに提供されるはずだ。ならば、接種申し込み時点でどこの会社のワクチンなのかを教えてほしい。それによって、最終判断したい」と。

 なぜなら、「私の理解」では日本政府が使う予定のワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)を使うファイザー社及びモデルナ社のワクチンとチンパンジーに感染するアデノウイルスを使うアストラゼネカ社製の三つだ。mRNAを使うのとアデノウイルスを使うのとでは全く製法が違い、アストラゼネカ社製は、他の2社のワクチンに比べれば推奨度は劣後するという専門家がいる。また、同社製は南アフリカ型変異ウイルスには効果がかなり落ちるという報告もある。だから、接種するならファイザーかモデルナのものにしたい。

 政府は、ワクチンの種類は選べないと言うだろう。だが、それでは、政府に対して情報を隠しているという不信や不満が生じ、接種はやめようという人が増えるかもしれない。接種が進まず、集団免疫ができなければ、その間にいずれのワクチンも効かない新しい変異ウイルスが現れて、最初からやり直しという事態もあり得る。

 接種が自由なのであれば、政府は、ワクチンのタイプによる違いを治験結果も含めて詳しく開示し、それを踏まえて国民がワクチンのタイプを選べるようにすべきだ。

 最近「日本の医薬品行政」への信頼を大きく損ねる事件が起きた。爪水虫の治療薬に睡眠導入剤成分を混入させて死者を出した小林化工というオリックスの子会社は、延べ約500品目中約8割の製品について虚偽の製造記録などの「二重帳簿」を作成し、一部の品質試験を40年以上前から行わずに結果を捏造していた。こんなトンデモない会社はお取り潰しかと思ったら、たったの4カ月弱の業務停止だけで営業を始めるという。厚生労働省の政治判断なのかどうかは不明だが、これでは、日本の医薬品は安全だとはとても思えない。

 厚労省は、医薬品行政で国民の信頼を得られなければ、今後出てくる国内産のアストラゼネカのワクチンやワクチン行政そのものへの信頼に影響し、接種も進まないことを肝に銘じるべきだ。

※週刊朝日  2021年2月26日号

■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など