菅義偉首相の長男をめぐる接待問題で山田真貴子・内閣広報官が辞職。後任に外務省の小野日子氏が就任した。新内閣広報官に期待される役割とは。AERA 2021年3月22日号から。



*  *  *
 体調不良を理由に辞職した山田真貴子氏に続く、2人目の女性内閣広報官が就任した。外務省の小野日子(ひかりこ)外務副報道官(55)だ。過去、内閣広報官という役回りは、時の政権によって大きく変化してきた。

■安倍政権で役割が変化

 内閣広報官は、政府の広報戦略を担う特別職の国家公務員。次官級の扱いで、「上がりポストで、時の官邸と親しい官僚が起用されてきた」(政府関係者)。内閣広報官は長らく、目立たない存在だった。首相の記者会見で司会はするが、発言内容の準備に踏み込むことはほとんどなかった。関係者の一人は「外遊の際の記者会見なら、外務省報道課長と同省出身の総理秘書官が主導して、総理の発言を調整していた。広報官は同席するだけだった」と証言する。

 まるで盲腸のような存在だった内閣広報官の役割が大きく変わったのが、第2次安倍政権(2012〜20年)だった。経済産業省出身の長谷川栄一氏が首相補佐官兼内閣広報官に就任。長谷川氏は20年12月、「桜を見る会」の問題で安倍晋三前首相が記者会見を開いたときに司会役を務めるなど、官僚というよりも、安倍氏の腹心という印象が強かった。

 長谷川氏が手がけた仕事の一つが、中国や韓国との間で起きた歴史認識問題だった。関係者によれば、長谷川氏は、安倍氏が望む政治的な主張に沿った様々な論文を外国語に翻訳させ、慰安婦を象徴する少女像の設置を巡って騒ぎになった海外の政府や自治体などに配布するよう指示。関係者の一人は「当時、歴史認識問題への対応は、長谷川氏への相談抜きには進まなかった」と証言する。

■スピンドクターの不在

 現在、菅政権と安倍政権との違いを巡る霞が関界隈の評価の一つが、スピンドクターの有無だ。スピンドクターとは、論点をずらしたり、自分に有利な証拠ばかりを示したりする行動(スピン)をうまくこなせる人を指す言葉だ。

 安倍政権では、長谷川氏や政務秘書官兼補佐官を務めた今井尚哉氏らが、この役割をうまく果たした。お陰で、成果を上げられなかった日本人拉致問題や北方領土問題などで批判を浴びることは少なかった。

 菅政権にこうした人物はいない。総務省の接待疑惑でも、「モリカケ問題を教訓に、疑惑をすぐに吐き出すことで早期決着を目指した」(与党幹部)はずが、結果的に対応が後手に回り、山田氏も官邸を去った。

 では、小野広報官にはどんな役割が期待されているのだろうか。小野氏は内閣副広報官や東京五輪・パラリンピック組織委員会のスポークスパーソンを務めてきた。加藤勝信官房長官は記者会見で「経験を生かし、内閣の重要政策を国民にわかりやすく伝える役割を期待している」と述べた。

 小野氏の先輩にあたる外務省関係者は「霞が関はまだまだ男社会。生き残るため、強さを表に出す女性官僚は多いが、小野さんは正反対。激高した姿を見たことがない。素朴で堅実な人」と語る。後輩の一人は「温厚で、年下にも丁寧に気を使ってくれる方」と話す。3月5日の首相会見でも、初めての司会役を無難にこなした。

 一方、小野氏は局長経験もなく、永田町と特に親しいと言われているわけでもない。関係者の一人は「外務省は利権と縁が薄い役所。最近では、森喜朗元首相の女性蔑視発言もあった」と述べ、小野氏の起用自体が、菅政権への批判を和らげる効果を期待したものだとの見方を示した。あまりに急な起用で、小野氏は外務省関係者に十分なあいさつもできなかったという。

 小野氏がどんな内閣広報官になるのか、菅政権には起用した責任がある。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

※AERA 2021年3月22日号