国会の会期末が迫る中、政府は出入国管理法の改正案の成立を今国会で見送った。一方で、国民投票法などの重要法案が続々と審議入り。背景にあるのは内閣支持率の急落だ。AERA 2021年5月31日号から。



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 急転直下の出来事だった。5月18日、与野党で修正協議が続いていた出入国管理(入管)法改正案の成立見送りが決まった。事実上の廃案だ。入国管理を所管する入管庁にとって同法の改正は悲願。どうしても、今国会で改正しておきたかった。

 実は6月16日の会期末に向けて国民投票法改正案、LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案、そして、冒頭の入管法改正案が自民党によって提出された。五輪憲章で「性的指向への差別の禁止」を謳(うた)っているオリンピック・パラリンピックを前に、「差別の禁止」ではなく「その理解を増進する」という、とってつけたかのような法案の提出に、立憲民主党などは「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」という一文を加えなければ法案審議には応じられないと徹底抗戦した。

 しかし、この修正案を受けて開かれた自民党の関係部会では「道徳的にLGBTは認められない」「法を盾に裁判が乱発する」など参加議員の大多数が反対。特命委員会の稲田朋美委員長は対応に追われた。初めて国会議員でLGBTの当事者であることを公言した立憲民主党の尾辻かな子・衆議院議員はこれらの発言を受け、「だから(差別を禁止するという内容を盛り込んだ)立法が必要なのです」と同日、ツイッターに書き込んだ。

■解散前に法案進めたい

 国会会期末近くになって、国民投票法をはじめ保守性の強い重要法案が続々と審議された。その理由について、ある自民党幹部は一連の法案の実際の審議は、次の解散総選挙後に始まると語った上でこう続けた。

「解散総選挙後の国会構成が、現状維持ならともかく、それも雲行きが怪しくなってきた。続落する内閣支持率を浮揚させる武器は、五輪開催とワクチン以外にない。しかし、五輪を開催した結果、今以上にコロナが拡大すれば、取り返しがつかない事態になる。だから数の上で圧倒的優位な今、前に進めたい法案は進めようということです」

■支持率低下で廃案に

 しかし、国民投票法改正案については、立憲民主党がテレビやラジオCMの規制のあり方などについて、「施行後3年を目途に必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」とする付則をつける修正案を提出。全面的にそれをのむ格好で自民党は修正案を受け入れた。また、冒頭の入管法については、法務省は同法改正案を最後の最後まで成立させようと粘ったが、最終的には廃案になることが決まった。

 そもそも、同法改正案は、外国人の収容や送還のルールを見直す内容だった。しかし、3月に名古屋出入国在留管理局の施設で死亡したスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)への入管の対応が問題化。自民党は立憲民主党など野党が要求したウィシュマさんの収容中のビデオ映像の開示には頑なに応じなかった。実はこのビデオに関しては、与党の法務委員会メンバー内からも「これは相当、分が悪い」との声が漏れていた。それでも、政権の支持率が盤石であれば、野党の要求を蹴ってでも委員会採決を目指しただろう。

 決定打になったのは、この最中に発表された時事通信による世論調査だった。菅政権発足後、内閣支持率は最低の「32.2%」という数字を打ったのだ。この数字に自民党内はざわついた。なぜならば、内閣支持率が30%を割り込めば危険水域と言われているからだ。官邸はすぐさま同法改正案を「取り下げろ」と自民党の二階俊博幹事長に命じた。官邸関係者の一人は内情をこう打ち明ける。

「入管法改正に菅義偉総理は最初から関心がなかった。頭の中はコロナ対応と五輪でいっぱい。東京・大阪でワクチンの大規模接種が始まろうとしているのに、こんなことでオウンゴールを決めても仕方がない。よく出来た総理の鶴の一声でした」

 この官邸関係者によると、改正法案の見送りはいいが、絶対にビデオ開示はするな、と官邸は念を押したという。よほどの内容なのだろう。奇しくも、入管法改正案見送りが決定した5月18日は、去年、検察官の定年延長を定めた「検察庁法改正案」が反対する世論に押され見送られた日だった。(編集部・中原一歩)

※AERA 2021年5月31日号より抜粋