5月28日、非常に重要な記事が、小さく報じられた。



 公明党の石井啓一幹事長が、加藤勝信官房長官に再生可能エネルギーの導入促進などを求める提言を手渡したというのだ。「今さら当たり前のことを」と思うかもしれない。しかし、この提言には、原発について、「依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会を目指すべき」と書いてあった。これに対して、加藤氏は「与党の声を聞いて」しっかり検討していくと応じたという。公明党が脱原発を唱えるのは何も目新しいことではない。しかし、これが、日本のエネルギー政策の根幹に大きな影響を与えるかもしれないのだ。

 ご承知のとおり、自民党内では、原発推進の火が燃え盛っている。しかも、それは、単に一部の電力族議員や安倍晋三前総理が最高顧問になっている議員の集まり「最新型原子力リプレース推進議員連盟」が気勢を上げたというレベルではない。石井・加藤会談の直前には、自民党の「正式機関」である総合エネルギー戦略調査会(額賀福志郎会長)が、今夏にも改定される可能性がある政府の「エネルギー基本計画」をめぐり、「原発のリプレース(建て替え)や新増設の推進を盛り込むよう求める」提言案をまとめた。同提言案には、再生可能エネルギーと並んで「原発を最大限活用する」と書いてある。

「リプレース・新増設」を明言することは、安倍政権時代から、政権にとってのタブーだった。菅義偉政権でも、新増設について「現時点で想定していない」という答弁を続けている。そもそも、安倍前総理が政権に返り咲いた直後の2013年の通常国会の施政方針演説では、「できる限り原発依存度を低減させていきます」と述べていた。

 一方、昨年10月に菅総理がぶち上げた2050年カーボンニュートラル宣言は、その具体的実現方法が全くの白紙で何の根拠もないものだった。その瞬間から、これは原発復活への企みだという見方が広がった。したがって、今回の自民党の正式機関の動きに、菅総理も正式に原発復活に舵を切ることを内々承諾したのではないかという憶測が広がった。

 そこに出てきたのが、公明党の提言だ。「原発に依存しない社会を目指す」という公明と「原発を最大限活用」という自民では、政策の方向性が真逆だ。菅総理は、公明党に太いパイプがある。「このタイミングで」公明党が提言をした裏には、この段階で原発推進を打ち出すことに慎重な菅氏への援護射撃だとの見方もある。与党内で意見が食い違えば、すぐに方針は決められないとして、時間稼ぎができるからだ。

 自民党原発推進派は、6月11日から英国で開催されるG7サミットで、菅総理に原発推進宣言をさせたかったようだが、公明の提言により、ギリギリのところで止まった。

 だが、菅総理が原発推進に反対かというとそうではない。9月の総裁選と秋の衆議院解散総選挙が終わるまで不人気政策は封印するという姑息な戦略があるだけだろう。

 仮に、今後も菅総理が原発新増設に慎重な態度を示し続けたとしても、国民は騙されてはいけない。選挙が終わる秋以降、菅総理が怒濤の原発推進政策に舵を切る可能性は十分ある。有権者は、それを念頭に置いて、今後の動きを注視すべきだ。

■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など

※週刊朝日  2021年6月18日号