東京五輪まであと40日と開催が迫っている。新型コロナの変異株が蔓延する中で、開催できるのか、国民の関心は高い。そんな中、注目を集めるのは政府分科会を率いる尾身茂会長の「提言」だ。五輪開催の感染リスクについてまとめた「提言」を来週前半にも政府へ提出するという。政府と分科会の間で何が起こっているのか。



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「議論はもう煮詰まっている。いま分科会メンバーと政府で最終的な調整が進められているところだ」

 こういうのは政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーの一人だ。尾身会長は「パンデミックのところで(五輪を)やるのは普通でない」「感染リスクや医療逼迫の影響を評価するのが我々の責任だ」などと国会で発言し、分科会メンバーらで感染リスクに関する提言を出す意向を示した。

 これに対し、丸川珠代五輪相は「全く別の地平から見てきた言葉」、田村憲久厚生労働相は「自主的な研究の成果の発表」などと発言し、真正面から扱わないような姿勢を示している。野党からは「開催の条件について分科会に諮ったらどうか」などと声があがっている。

 分科会メンバーによると、東京五輪の開催について提言を出すことは4月から動きがあったという。5月初めにも提言を出そうとしていたが、政府との折り合いがつかず、断念した経緯があった。

「尾身会長の踏み込んだ発言は、なかなか結論を出さない政府に対する強い不満がある」(分科会メンバー)

 今も折り合いがつかない要因は、観客の有無に関する考え方の隔たりだ。

 政府としては感染症対策をとった上で観客を入れて東京五輪を開催させたい意向だ。無観客では経済的な損失も大きい。観客数は上限5千人程度を念頭にしていると言われる。観客を入れても感染リスクは大きく高まらないという調査結果もあり、政府側の考えを後押ししている。

 他方で尾身会長ら感染症専門家の主張は無観客だ。観客が入り、「お祭り」的な雰囲気が国内に伝わることで、国民の気が緩み、外出や飲食の機会が増える可能性がある。感染が再び拡大し、第5波につながることを強く懸念している。今回の提言は、有観客と無観客それぞれのリスクを評価したうえで、有観客では感染リスクが高まると指摘するものになると見られる。先の分科会メンバーの一人はこう説明する。


「五輪中止を求めるという議論にはなっていない。開催の是非には触れない方向です。ただ、IOCへも提言するとなると、『無観客』につながる強い提言になるのではないか。一方で、尾身会長の言動にはリスク評価の専門家としては踏み込み過ぎで、政治的でもある。分科会のメンバーも一枚岩ではないですから、分科会として提言するのか、それとも有志のメンバーで出すのかまだ結論は出ていません」

 菅義偉首相ら官邸周辺からは、尾身会長に対する不満が噴出している。「果たして感染症の専門家として扱っていいのか」(官邸関係者)という声も出ている。

 尾身氏は厚労省に入省し、その後、WHOに出向。そこで西太平洋地域の小児麻痺(ポリオ)を根絶させた人物として世界的に知られている。内戦が起こっていたフィリピンではラモス大統領(当時)に依頼をし、ワクチン接種のための『停戦協定』を結ばせたという逸話もある。

 他方で、医師・医学者ではあるものの、臨床経験は地域医療に従事した9年間のみで長くない。研究論文も英語の筆頭論文も多くはないと業界では言われる。政府関係者はこう漏らす。

「実態は厚労省の官僚ですよ。踏み込んだ発言も、五輪後の感染拡大を懸念する厚労省が予防線を張るために尾身会長に言わせているという見方もでている。『国を救う救世主』かのように持て囃され、行動が一層、扇動的になっているのではないか」

 来週前半にも出される「提言」の中身はどういったものになるのか。国民がそれをどう受け止めるか、注目が集まる。
(AERAdot.編集部 吉崎洋夫)