東京都議選で自民党が都議会第一党に返り咲いたが、獲得議席は伸び悩んだ。菅首相では総選挙は戦えない。そんな危機感が党内にまん延している。AERA 2021年7月19日号から。



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 果たして自民党が負けすぎたのは「都民ファーストが土壇場で巻き返しを図った」からなのか。この分析は、同じ党内でも都連と国政では解釈が全く異なる。危機感を募らせるのは国政の側だ。念頭には、衆議院の解散と、総選挙の行方がある。

「深刻なのは春先の三つの補欠選挙・再選挙、そして、千葉と静岡の二つの県知事選挙。いずれも自民党が負けているということ。これは前代未聞ですよ。つまり、もう菅義偉首相では、勝てないということかもしれない。これだけ勝てないと『選挙の顔』としては失格なんです」

 そう語るのは自民党のベテラン議員。だからといって解散・総選挙の前に総裁選の実施を求める、いわば「菅降ろし」の先頭に立つ選択肢はないという。

「誰の目にも、今度の選挙は分が悪いことは明らか。それに、菅さん以外の弾がないでしょ。河野(太郎)さんはワクチンでダメ。岸田(文雄)さんは選挙で勝てない。石破(茂)さんは党内人気が極端にないから担げない。安倍晋三前首相や麻生太郎財務大臣の声もありますが、それを声高に言っているのは、安倍人気の陰で苦労せずに当選した1回生、2回生議員ですよ。今度の選挙では、菅人気は見込めない。どれだけ地元を歩いてきたのか。議員個人の底力が試される選挙になるでしょう」

 国会が閉会中の今、現職議員は地元に戻り、総選挙に向けた準備に奔走している。だが自民党議員は「コロナ対応の無策ぶり」「五輪強行」「ワクチンを巡る混乱」への批判にさらされているという。それをかわすため、街頭に出ず、企業や団体回りに徹する議員もいるそうだ。

 それでも官邸は「なんだかんだ言って五輪が開催されれば、中止に傾いていた世論も、必ず開催してよかったに戻ってくる。その上で全面的に緊急事態宣言を解除し、選挙だ」(関係者)と楽観姿勢を崩していない。

■「五輪強行」が追い打ち

 しかし、事態は政権にとって最悪な方向に加速している。8日、菅首相は東京都に4度目となる「緊急事態宣言」を発出すると発表した。数カ月前から複数の専門家が指摘していた「東京のコロナ新規感染者数が5月13日以来、1日あたり1千人を超える」という予測が現実になりつつあるのだ。期間は8月22日まで。その結果、オリンピック開会式などの「無観客」が決定的となった。これを受けて自民党内には激震が走った。菅首相に近い若手議員の一人は、発出しても国民が従うかは微妙だと声を荒らげた。

「当然ですが、なぜ4度目があるんだ、ということですよ。この間の政府のコロナ対策はどうなっているんだと。総理は、この状況で再び、飲食店に酒の提供をやめろ、と本当に言えるとでも思っているのでしょうか」

 立憲民主党の福山哲郎幹事長はツイッターを更新し、「『緊急事態宣言下のオリンピック』が現実になってしまった。最悪のシナリオ。まさに『政府は追い込まれた』としか言いようがありません」とコメントした。

 8日、記者会見に臨んだ菅首相だったが、4回目の緊急事態宣言を発出する状況に追い込まれた政府の責任への言及はなかった。「オリンピック・パラリンピックには世界の人々をひとつにする力があります」。そう高らかに演説した菅首相の言葉に納得する国民がどれだけいるのか。政治の言葉の貧しさだけが胸に残る空虚な会見だった。(編集部・中原一歩)

※AERA 2021年7月19日号より抜粋