「日本経済強靱化計画、いわゆるサナエノミクスの3本の矢は金融緩和、緊急時の機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資でございます」

 総裁選への出馬を正式に表明した高市早苗前総務相。9月8日の出馬会見では、自信満々の表情で政策を語るなど、ここにきて存在感を見せている。

 菅義偉首相が不出馬を突如表明したことで、一気に動きが加速した自民党総裁選。国民の人気が高い河野太郎ワクチン担当相や、すでに8月末に出馬を表明していた岸田文雄前政調会長らが本命候補としてあげられているが、高市氏の立候補が、様々な議論を呼んでいることは間違いない。

 まず、女性議員が総裁選に出馬するのは13年ぶりだ。前回の候補者は小池百合子東京都知事だった。野田聖子氏も2015年、18年に名乗りを上げたが、20人の推薦人を集められず断念した。

「野田さんはもちろん、小池さんも推薦人を集めるのに苦労した。多くの女性政治家が男性と同じように、自民党の派閥構造の中で鍛えられたり、育てられたりという体制になっていない」

 そう指摘するのは三重大学の岩本美砂子教授(政治学)だ。

 今回、高市氏が出馬できそうな背景には安倍晋三前首相の支持を取り付けられたことがあるが、岩本教授は「(安倍氏の出身母体の)細田派はこぞって『高市さんで団結しよう』とはなっていない」と話す。

「小池さんもそうだったが、派閥が団結して戦う形ではないでしょう。党のピンチに選挙の顔になりうると祭り上げられ、実力が発揮できないままに使い捨てられる。リクルート事件で政治不信を呼んだときの海部俊樹元首相がその例で、クリーンなイメージだけで持ち上げられた。高市さんもそうなる危険性は大きいと思う。世論的に女性を推したほうがいいだろうという安倍氏の考えが透けて見える」

ロールモデルが見当たらない

 そして、安倍氏が高市氏を支持するもう一つの背景には、「菅内閣の1年で『安倍的』なタカ派の元気が雲散霧消したので、自民党の中で一番“右”のところをもう一度集めるシンボルとして高市氏が持ち上げられている」と分析する。

 安倍政治を色濃く継承しようとする姿勢は、「サナエノミクス」からも見て取れる。名称もさることながら、その内容は安倍氏が掲げた「アベノミクス」路線を引き継ぐものだからだ。グローバル・エコノミストの斎藤満さんは「『アベノミクス』の焼き直しにすぎない」と批判する。

「日銀が20年間も緩和策を続けてきたのに物価が一向に上向かないことをみてもわかるように、緩和策頼みの経済対策に限界があるのは明らかです。財政出動は、今のような危機的状況では必要なのは確かです。だけど、その使い道に問題がある。大規模な予算が一部の大企業や利権に還流するような使われ方をしている現状では、安倍前政権の延長線上にあるような政府に任せていいのか不安です。そもそも、失敗とも言えるアベノミクスを引き継ぐことに反発しか覚えません」

 一方、国のトップ候補として女性が出てきたという点においては歓迎する向きもある。18年に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行され、安倍氏自身が第2次内閣時に「女性活躍」をうたってアピールするなど、かねて政界も男性中心社会からの脱却を求められているからだ。

 超党派の「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」会長の中川正春元文部科学相はこう話す。

「高市さんが総裁選に挑戦できることは喜ばしい。これまでは女性首相という選択肢すらなかった。選挙の現場を見ると、特に地方議会ではここ10年ほどで、女性に期待するという機運が高まっていると感じる。これまでは選挙に携わる者や有権者からあまりにも否定的に見られていたのが、肯定的に変わってきた。そうした機運が中央にも波及してきたのが今回の高市さん出馬の背景にあるのでは」

(本誌・秦正理、池田正史)

※週刊朝日  2021年9月24日号より抜粋