「私が目指すのは、新しい資本主義の実現です」

 そう岸田首相は、就任後初の所信表明演説で語った。

 新しい資本主義? その後、岸田首相はこうつづけた。

「新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されています」

「『分配なくして次の成長なし』。このことも、私は、強く訴えます」

 ようやくアベノミクスの弊害について検証するのかなと思った。しかし、違った。その後、岸田さんはこう述べた。

「成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて、次の成長が実現します」

 成長してもうかったぶん分配するって、それって結局、アベノミクスの考え方と変わらない。

 日本では円安が進んでいる。直近では2年11カ月ぶりの安さだし、もう少し長期で見ても、最も円高だった2011年10月31日の1ドル75円と比べると、円の価値は3分の2の66%になったことになる。

 2011年当時、円高で輸出産業が大変だといってる人はいた。なので、そのとき政権与党だった民主党をいまだに悪くいう人もいる。

 では、あたしたちの暮らしはどうだったか。あのとき、あたしたちは輸入品が安く買え、海外旅行へバンバン行けてた。

 コロナのせいではない。コロナが広まる前であっても、海外旅行へ行けば、以前とは違い何を買うにも国内より高くなっていることにため息が出たものだ。

 それどころではない、昨今では、感染減による需要回復や天候不順もあいまって、小麦、コーヒー、食用油といった生活必需品が値上がりしている。

 ガソリンもだ。ガソリンが全国平均で1リットル160円超になった。2020年5月の125円から比べると28%の値上がりだ。配送や輸送にガソリン代は乗せられる。こうなると、なにもかも値上がりしていきそうだ。

 アベノミクスの第1の矢は、金融緩和で日銀が株を買うことだった。第2の矢は、財政出動で政府がどんどんお金を使うことだった。そして、第3の矢は、まともに放たれることはなく、日本経済はアベノミクスの約8年間ほとんど成長しなかった。

 それは経済の実態が成長しない=増えないのにお金だけをどんどん増やすということで、それはつまりあたしたちのお金の価値がどんどん下がるということだったのでは? アベノミクスであたしたちの多くは貧しくなったんじゃないのかな?

 新しい資本主義とかどうでもいいから、アベノミクスの検証をしていただきたい。

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

※週刊朝日  2021年11月12日号