参院選に「圧勝」した岸田文雄首相が目指すのは、「自公国3党連立政権」だ。日本維新の会も加え、自民党の党是である憲法改正に必要な3分の2の議席数を確保する狙いがあるとみられる。

 4月14日、岸田首相は官邸に遠藤利明選対委員長を呼んだ。野党である国民民主党の協力を確かなものにしようと、参院選で山形に公認候補を立てず、同党の現職、舟山康江氏に事実上議席を譲る方針を固め、反発を強める県連に理解と協力を求めようとしたのだ。

 政府関係者によると、岸田首相は「選対委員長の立場で、地元・山形なのに、大変申し訳ない」と頭を下げた。これに対し遠藤氏は「明後日、県連で頭を下げてきます。ボコボコにされてきますから」と首相を気遣ったという。16日、山形市で開かれた自民党山形県連政経セミナーで、遠藤氏は県連から「なぜ自民党の旗を降ろすのだ」と文字どおりボコボコに批判された。19日の党総務会でも同様の批判が相次いだが、頭を下げ続けた。

 遠藤氏は谷垣グループの代表世話人を務める。谷垣グループは岸田派と同じ宏池会を源流とする。遠藤氏は岸田首相が総裁選に出馬した際に選対本部長を務めるなど、いまや首相の側近の一人だ。

 遠藤氏は本誌の取材に対し、官邸には呼ばれたが岸田首相が頭を下げたり、「ボコボコにされてくる」と発言したりはしていないと否定。「総理とは、あうんの呼吸だ」と述べるにとどまったが、「連立がうまくいく方向になれば論功行賞で重要閣僚として入閣するのでないか」(自民党関係者)との声が早くも聞こえる。

 国民民主への急接近のキーマンと言われているのが、今や岸田首相の「後見人」的存在である麻生太郎副総裁だ。ある自民党幹部がこう語る。

「麻生氏は今年に入り、国民民主の玉木雄一郎代表と東京都内でひそかに会い、玉木氏が訴える、ガソリン高対策のための『トリガー条項』凍結解除の検討や、今回の山形選挙区の件を持ちかけたと聞いています。国民民主は昨年12月、衆院憲法審査会の与党側の協議に日本維新の会と共に参加。憲法論議を促進していく方針で一致するなど、『与党接近』への素地はありましたからね」

 この幹部によれば、アプローチは「効果てきめん」。会談後には政権への接近に拍車がかかり、トリガー条項を巡る自民、公明、国民民主の3党協議を開始。国民民主は野党でありながら、2022年度予算案に賛成する異例の対応に踏み切った。自民党幹部が語る。

「一時、『大宏池会構想』がやたら報道され、岸田さんや麻生さんは党内に敵を作るのは得策ではないと少し抑えている。『宏池会ホールディングス』のような緩やかな連立でいいんじゃないかと。玉木氏は宏池会出身の大平正芳元首相の遠い縁戚で、『後継者』を自任していますから、ホールディングスの一員になってもおかしくありません」

 玉木氏の「変節」を目の当たりにした立憲民主党と共産党からは、「国民民主はもはや与党」として、野党共闘の枠組みから事実上排除しようという声も聞こえてくる。だが、岸田首相を支える自民幹部は「国民民主にはもう2枚、踏み絵を踏んでもらう」と話す。

「22年度補正予算案の賛成と、通常国会の会期終盤に野党が内閣不信任決議案を出してくれば、与党と共に否決してもらう。ここまでやってくれれば、かつて民間労組が支援した旧民社党との『自公民路線』の復活だ。参院選後は3党連立もあり得る」

◆労組切り崩して盤石な政権基盤

 この幹部は、こうした路線は「岸田首相の方針」であると強調する。既に玉木氏らには、閣僚ポストの話も内々に持ちかけられているという。

 ただ、たとえ3党連立を組んでも、国民民主の議席数は衆院で11、参院は今回が前回並みの5議席なら計10議席。連立に加わらない議員も出ると予測され、それほど大きな勢力にはならない。

 それでも岸田首相が国民民主の取り込みに力を入れるのは、参院選での勝利を確実にするため、勝敗の行方に直結する32ある1人区での野党共闘にくさびを打ち込みたいと考えているからだ。

 過去2回の選挙で、自民は参院1人区でいずれも20勝以上をしているが、野党共闘の効果もあり10選挙区以上で敗北している。今回の選挙で取りこぼす選挙区を5程度に抑えられれば、定数124議席(非改選を合わせ248議席)のうち、「自民党単独で60議席は獲得できる」(別の自民党幹部)との計算も成り立つ。

 さらに、国民を取り込む最大の理由は別にある。国民を支持する連合傘下の民間労組のうち、自動車総連やUAゼンセン、電機連合、電力総連といった、公称で20万〜180万人もの構成員がいる大規模労組を引き込むためだ。旧同盟系を中心とする民間労組の支援が得られれば、政権の安定感は確実なものになる。

 また、国民民主が東京選挙区で共闘する地域政党「都民ファーストの会」が参院選後に国民民主と合流すれば、小池百合子都知事との連携も可能だ。

 前出の自民党幹部は「これまでは安倍晋三元首相と菅義偉前首相との人間関係で、維新が政権運営に協力してきた。岸田政権独自の『自公国』の枠組みを作れれば、党内の他勢力に気兼ねなく動けるようになり、政権運営の自由度が高まる」と話す。しかも大規模労組と小池知事も味方につくなら「それぞれが作用し合い、さらに盤石な政権基盤となる」(同幹部)。

 その先に待っているのが悲願の憲法改正だ。自民党の有志議員による「憲法改正推進国会議員連盟」の会長を務める衛藤征士郎・元衆院副議長は「憲法審査会で議論を重ね、各党議案を出す機が熟した。緊急事態条項を最優先に、遅くとも来年の通常国会で発議したい」と前のめりに語る。

 前出の自民党関係者によれば、緊急事態条項の「議員任期延長」案に絞って提案するという。立憲の西村智奈美幹事長は「改憲しなくても、参院の緊急集会で事足りる」と反論するが、自公国に維新も含めた「改憲政党」で衆参3分の2の議席を占められたらかなわない。

「首相はこれを皮切りに毎年国民投票を行い、参院の合区解消や教育環境の充実などの改正を行い、いずれ9条に手をつける方針なのではないか」(自民党関係者)とささやかれる。いずれにせよ、戦後70年以上手をつけられなかった憲法改正が現実味を帯びるかは、参院選の結果にかかっている。(本誌・亀井洋志、村上新太郎、佐賀旭)

※週刊朝日  2022年5月6・13日合併号より抜粋