第2次安倍政権は、特定秘密保護法や安保法制などで強行採決を連発し、森友・加計学園問題や「桜を見る会」を巡る問題などスキャンダルが続出した。長期政権が残した歪みは大きい。ジャーナリストの斎藤貴男さんに聞いた。

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 安倍氏への銃撃事件には大変な衝撃を受けました。謹んでご冥福をお祈りしたい。しかし、7年8カ月に及んだ「安倍政治」の評価を問われれば、それはまた別の話です。

 集団的自衛権の行使容認やアベノミクスなど個別の政策については、議論が分かれるところだと思います。それよりも、安倍政治の最大の罪は、民主主義を完全に形骸化し、日本社会を根底から腐らせたことです。

 安倍氏なりの理想とする“国家像”というものがあったのでしょう。けれども、それを実現するためには手段を選ばなかった。自分の理想以外の価値観を軽視し、踏みにじってきました。

 異論に耳を傾けず、重要法案を数の力で押し切った。特定秘密保護法や安保法制、「共謀罪」法などで強行採決を連発しました。安倍氏の考えに共感できる人たちにはすごく頼もしくも映ったでしょうが、反感を持つ人たちは強烈な怒りを覚え、国論が両極端になっていきました。

 森友・加計問題や桜を見る会では、公文書の改竄(かいざん)や廃棄が常態化。具体的な証拠を突きつけられても「批判は当たらない」で済ませ、権力者は何をやってもよいのだ、というのが自民党や官僚の常識になりました。

 こうした強権的な手法やスキャンダルを巡って国論は二分され、ネット上などで互いに罵詈(ばり)雑言を浴びせ合うようになりました。社会が分断されたのは、新自由主義によって格差が広がったのも主因です。公正な競争など望むべくもない条件の差をそのままに、いわゆる“負け組”はすべて自己責任で片付けられてきた。新自由主義は小泉純一郎政権の時に顕著となり、当然の帰結として安倍政権ではネポティズム(縁故主義)がはびこりました。

 今回の国葬を決めた岸田首相は政権維持のため、安倍派を取り込みたいという思いもあったのでしょう。しかし、国葬を巡っても賛否は真っ二つに分かれています。これ以上、国民を分断することは避けるべきです。

 分断と対立が進んで最も懸念されるのは、冷笑主義の蔓延(まんえん)です。安倍氏は国会で質問中の野党議員に対して、「日教組、日教組」とヤジを飛ばしたことがありました。日本教職員組合の何が問題かを説明もせずに、日教組という名称そのものを悪口にして、せせら笑ったのです。真っ当な批判に耳を傾けるどころか、お互い議論をしようという態度さえ冷笑の対象になる。これでは罵(ののし)り合っているほうがまだマシ。社会の閉塞(へいそく)感はますます高まるばかりです。

(構成 本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2022年8月12日号