岸田文雄政権が崩壊寸前だ。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との癒着問題をきちんと解決できない。物価高対策も評判が悪い。そのうえ、葉梨康弘法相が死刑をめぐる軽率な発言で辞任に追い込まれるなど、政権はフラフラだ。自民党の伝統派閥・宏池会を率いる「本流」の岸田首相だが、肝心の自民党の力そのものが弱まっている。政治ジャーナリスト・星浩氏が、岸田政権がダメな理由を解剖し、その行く末を展望する。

*  *  *

 岸田首相は12日から8日間の日程でカンボジア、インドネシア、タイを訪問した。国際会議の合間にバイデン米大統領や習近平中国国家主席らと相次いで会談した。得意の外交で求心力を回復したいところだが、帰国の首相を待ち受けていたのはかつてない難局だ。

 2021年の衆院選と22年の参院選を勝ち抜いた岸田首相は当面、国政選挙がない「黄金の3年」を手にしたはずだった。だが、安倍晋三元首相が銃撃事件で死去し、旧統一教会問題が拡大する中で、岸田政権は急速に求心力を失ってきた。山際大志郎前経済再生相の更迭に続き、葉梨氏が「法相は死刑のはんこを押して昼のニュースでトップになる地味な仕事」などと発言し、与野党から批判されて閣僚を辞任。政権はさらに行き詰まっている。朝日新聞が11月中旬に実施した世論調査でも支持率は発足以降最低の37%に落ち込み、不支持率は最高の51%に達した。

 岸田政権がダメな理由は何か。大きく3点あげられる。第一に、岸田首相自身の資質である。岸田氏は、安倍氏や菅義偉前首相のような「強権体質」はない。「聞く力」を信条としている。だが、その半面、優柔不断で迅速な決断ができない。安倍氏の国葬は、麻生太郎副総裁らの意向も踏まえて素早い決定だったが、法的根拠や国民感情などを考えず、脇の甘い判断となった。

 岸田首相は山際氏について、いったんは続投を決めていたのだが、世論の批判の高まりを受けて更迭に舵を切らざるを得なかった。葉梨氏についても、国会で「続投」を明言した直後の更迭で、自民、公明両党幹部からも「首相の腰が定まらないのが深刻な問題だ」という反応が出ている。

 もっとも、過去にも優柔不断や思い込みの強い首相は少なくなかった。それでも官房長官などの側近に剛腕や沈着冷静なタイプの政治家を配し、首相官邸のパワーを強めたケースがある。第二の理由として、岸田政権にはそうした側近の支援態勢が弱い点があげられる。

 例えば、小渕恵三元首相は「人柄の小渕」を自任して、円満な政権運営をアピールしていたが、官房長官に剛腕の野中広務、青木幹雄両氏を起用。閣僚の更迭などを両官房長官が取り仕切った。小泉純一郎元首相は福田康夫氏、安倍氏は菅義偉氏というそれぞれ堅実、剛腕な官房長官に支えられた。

 岸田政権の松野博一官房長官は円満な人柄で、霞が関の官僚からは手腕が評価されているが、岸田首相とは異なる派閥(安倍派)に所属していることもあり、首相の意向を先読みして失言した閣僚の首を切るという力技はできていない。茂木敏充幹事長は「ポスト岸田」を意識し始めて、麻生氏ら党内有力者の意向に反することには踏み込まなくなっている。

 岸田政権には、事務次官を経験した嶋田隆首席秘書官(経済産業省)、秋葉剛男国家安全保障局長(外務省)ら霞が関のエリート官僚が集っている。外交や経済の政策づくりは素早いものの、閣僚更迭などの政局には弱い。体を張って首相を守る政治家が官邸にいないと政権はもろい。そのことは過去のいくつもの政局が物語っている。

 第三に自民党の人材枯渇が岸田政権に影を落としている点だ。首相が「決められない」なら、自民党の幹事長や政調会長が政局や政策づくりをリードしていく場面は、これまでもたびたびあった。海部俊樹首相の時は小沢一郎幹事長、橋本龍太郎首相の時は加藤紘一幹事長や山崎拓政調会長らが典型的だ。

 岸田政権では、茂木幹事長が前面に出て政局を切り盛りする場面は見られず、萩生田光一政調会長は旧統一教会との関係が指摘され、政策課題で主導権を取れていない。野党との折衝に当たる高木毅国会対策委員長も、立憲民主党の安住淳国対委員長に押し込まれて国会日程がスムーズに設定できていない。

 自民党はかつて、三角大福中(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘各氏)や安竹宮(安倍晋太郎、竹下登、宮澤喜一各氏)、YKK(山崎拓、加藤紘一、小泉純一郎各氏)といった人材が競い合っていた。しかし、安倍「一強」政権と後継の菅政権が続いた中で、政策論議は低調となり、党内の活力が失われた。その結果、岸田首相を支える自民党の態勢は弱体化している。それは安倍・菅政治の負の遺産ともいえるだろう。

 政権をどう立て直すのか。いまさら首相自身が「決断型」に変身するのは難しい。自民党の人材レベルを急に上げるのも無理だ。となると、首相周辺の態勢を強化していくしかない。それは首相自身も考えているようだ。

 寺田稔総務相が政治資金の疑惑をめぐって野党から追及を受け、20日に官邸を訪れて岸田首相に大臣職の辞表を提出した。山際、葉梨両氏に続く「辞任ドミノ」となったうえ、首相の側近でもある寺田氏の辞任は政権にとって大きな痛手だ。そのため首相の周辺では、来年1月からの通常国会前に内閣改造・自民党役員人事に踏み切って、高木国対委員長を交代させる案も浮上している。

 岸田政権は今後、来年度予算編成を控え、増額する予定の防衛費の財源を手当てしなければならない。国家安全保障戦略など安保関係3文書を改定し、自衛隊による反撃能力の保有などを打ち出す必要がある。旧統一教会による高額寄付の被害者救済のための法整備も待ったなしだ。物価高、景気低迷が続くようだと、国民の不満はいっそう高まってくるだろう。内閣改造や自民党役員人事でこの難局を乗り切れるとは思えない。その場合、岸田首相自身のリーダーとしての資質が正面から問われてくるのは確実だ。それができなければ、来年5月の広島サミットでの勇退も現実味を帯びる。

※週刊朝日  2022年12月2日号