旧統一教会の法規制や防衛費増額の財源確保など、難題山積みのまま2023年を迎える岸田文雄政権。本誌は現時点での政治状況を基に次期衆院選挙の予測を実施。その結果は衝撃的だった。議席予測のシミュレーションと23年の展望をまとめた。
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「岸田首相が真っ先にしなければならないことは、『政治とカネ』問題を抱える秋葉賢也復興相を通常国会前に代えること。そして、2023年1月にも旧統一教会の解散命令請求を出すこと。これらが腰砕けに終われば、首相の指導力に改めて疑問符がついてしまう」
ある政府関係者は、岸田政権の今後について悲観的な見方を示した。国政選挙のない「黄金の3年間」を謳歌するはずが、気が付けば土俵際に追い込まれている。
「賃上げが政権の命運を握るが、防衛費増額による将来の法人税増税が企業マインドを冷やし、ブレーキがかかる可能性は十分にある。そうなると春の統一地方選や、4月下旬の衆院和歌山・山口・千葉の3補欠選挙に確実に影響が出る。全てが裏目に出れば、5月に地元・広島で開催する主要7カ国首脳会議(G7サミット)が本当に『花道』になりかねない」(政府関係者)
実際、政権の状況は極めて厳しい。毎日新聞が12月17、18の両日、実施した全国世論調査によると、岸田内閣の支持率は25%で、11月の前回調査の31%から6ポイント下落し、21年10月の政権発足以降で最低となった。不支持率は69%で前回より7ポイント増加。やはり、1兆円強の「防衛増税」を国民に信を問うこともなく突如として打ち出したことが響いたと考えるのが自然だろう。
安全保障関連3文書取りまとめと防衛財源を巡る税制論議では、自民党側の発言力が増したこともあり、党内から首相の増税方針に対する批判や不満が噴出した。重要な政策判断を巡り、党側と衝突する場面は今後もありそうで、そのたびに政権の体力はそがれていくことになる。
■我慢することが首相の長期戦略
それでも、党内外に自分を追い落とす“ライバル”がいない状況に、岸田首相は強気を維持しているという観測も根強い。首相周辺はこう語る。
「岸田首相の長期戦略は、どう非難されようが、とにかくじっと我慢すること。G7サミットを議長国として取り仕切って支持率アップにつなげ、様子を見ながら解散。総選挙を最小ダメージで乗り切って、24年秋の総裁選を事実上の無投票に持ち込み、2期6年の長期政権を頭に描いている」
だが、果たしてそんな甘いシナリオを国民が許容するだろうか。本誌は10増10減の新区割りで行われる次期衆院選について、政治ジャーナリストの野上忠興氏、角谷浩一氏に選挙予測を依頼した。自民党は、野上氏は最大で79議席減、角谷氏は81議席減の大惨敗という衝撃的な数字が出た。与党全体では90議席減に迫る勢いだ。今回は不確定要素も多いため幅をもった予測になっているが、中央の値で見ても、両者とも衆院の過半数である233議席を割るか割らないかという、厳しい予測になっている。
野上氏は、12月11日に投開票され統一地方選の前哨戦と言われた茨城県議選で自民党県連幹事長を含む現職10人が落選した結果などから、「今や自民党というブランドは地に落ちた」と語る。
「今回は旧統一教会票が期待できないのに加え、頼りにしてきた創価学会票も組織の高齢化などにより目に見えて集票力が落ちている。過去、大差で勝ってきた候補者もそう簡単に勝てなくなった。そんな中で、増税問題も決着せず、来年度に持ち越し。今や岸田離れは顕著で、自公の過半数割れが現実味を帯びてきました。自民党にとってはかつてないきつい選挙になる。衆参のねじれが起きれば、岸田首相は当然、辞任でしょう」(野上氏)
野上氏が算出したデータによると、自民党には前回衆院選で次点との差が1万票未満で当選した議員が33人、2万票未満で当選した議員が57人もいる。そうした接戦区で旧統一教会などからの「組織票」や選挙支援を失えば、落選者が続出しかねない。
■立憲の増税派が自民党に接近か
野上氏の予測では、旧統一教会と密接な関係を持っていた萩生田光一政調会長や下村博文元文科相、衛藤征士郎元衆院副議長など安倍派の議員は「落選危機」。区割りが変わる甘利明前幹事長も「相当厳しい」、山際大志郎前経済再生相に至っては「落選濃厚」と言い切る。「法相は死刑のはんこを押したときだけニュースになる地味な役職」と発言し辞任した葉梨康弘前法相も当落線上だという。
自民党内の“内戦”も熾烈化するとみられる。角谷氏によると、ポイントは10増10減の減員区。特に、23年4月に補選が予定されている山口、和歌山が注目だという。
「山口1区は現職の高村正大衆院議員、2区は岸信夫前防衛相の息子、3区は林芳正外相で、現在の4区のうち3区まで埋まる。断絶すると思われていた安倍元首相の後継は下関市議で調整に入ったようです」(角谷氏)
しかし、補選後の衆院選は区割りで4から3に選挙区が減る。「調整に手間取っている現4区の下関市は新3区に加わるものの、同区では林氏が有力。つまり、安倍元首相の後継が存続することは厳しいでしょう」(同)という。
3区から2区に減らされる和歌山もきな臭い。11月の知事選をめぐる現職知事の後継者争いで、二階俊博元幹事長の支援を受けた元国民民主の岸本周平前衆院議員が、世耕弘成参院幹事長が推した候補を抑えて党の推薦を獲得。衆院鞍替えを熱望しているとされる世耕氏だが、党公認争いが熾烈化する和歌山で、この結果は出馬への逆風だ。「場合によっては比例に回るか、そのまま参院議員を続けるほかないかもしれない」(同)
与党が厳しい戦いを強いられる中、野党は軒並み議席増が見込まれる。ただ、どの党も過半数には遠く及ばず、政権奪取は夢のまた夢。決して展望が明るいとは言えない。
角谷氏は23年、政界再編の序章として野党大再編が起こると予測する。
「統一地方選が終わった後、立憲民主党が右派、左派に分かれて右派が大きくなると予測しています。臨時国会では、立憲民主の安住淳国対委員長は自民の高木毅国対委員長とほとんど大事な話はしておらず、ずっと森山裕前国対委員長と折衝していた。私は、森山氏が野党再編を前提に連立の秋波を送っているとみています」
角谷氏が注目したのは、立憲の枝野幸男前代表が10月28日、自らのユーチューブチャンネルで「去年の総選挙で時限的とはいえ消費税減税を言ったことは間違いだったと反省している」と突然発言し、党内からも困惑の声があがった一件だ。
「あれは、ある種の自民党へのシグナルだと感じました。枝野氏だけでなく、野田佳彦氏、安住氏といった旧民主党時代からのキーマンは財務省と近い財政規律派。立憲にとっては、与党にとって難しい増税の話を立憲の賛同でまとめさせる見返りに、政権の中に大臣や副大臣、政務官を入れ、政権運営の経験を積むことができる。ただし、さすがに選挙の調整まではできないので、連立は次期衆院選までの限定的なものになるはずです」(同)
現在の勢力図から考えると“ウルトラC”的な地殻変動となるが、泉健太代表になってからも一向に浮上のきっかけをつかめない立憲の中では議員らの不満はくすぶっており、そのマグマの行方次第では、こうした動きが現実化しても不思議ではない。
「党内には、小沢一郎氏など、増税への抵抗が強い勢力も少なからずいます。かつて民主党が割れた原因も増税でした。今回も、増税賛成の右派と増税反対の左派で分裂するのではないか。右派の代表は首相経験者の野田氏で、そこに国民民主党や維新の一部も合流し、自民との大連立に動く」(同)
とはいえ、衆院選がない限り数は十分足りている与党がなぜ、立憲と組むのか。角谷氏の分析はこうだ。
「岸田首相にとっては、首相経験者の麻生太郎副総裁と菅義偉氏、二階元幹事長、森山前国対委員長という“ご意見番”4人のご機嫌をうかがいながら政権を運営するのがしんどくなっている。立憲と組んで公明と3党の連立調整を優先する体制になれば、ご意見番の声は後回しにできる」
いずれにせよ、23年は岸田首相にとって正念場の年となることは間違いない。そうなると、やはり気になるのは「ポスト岸田」が誰になるかだ。
■“終わった人”!? 国民人気は健在
野上氏は次のように予測する。
「岸田氏の辞め方次第で本格政権か、ワンポイントになるかが決まる。岸田氏が辞任に追い込まれ、次の選挙までのワンポイントで登板するような状況ならば、総理経験者の麻生、菅両氏しかない。総裁選を経たうえでの本格政権となると、茂木敏充幹事長と河野太郎デジタル相が『次は俺だ』と強い意欲を示している。西村康稔経済産業相、高市早苗経済安全保障相、野田聖子元総務相らも機会をうかがっている」
圧倒的に有力な候補者がいない状況だが、派閥の力学を考えると、おのずと答えは絞られてくるという。
「原発反対の河野氏は安倍派が絶対に許さない。西村氏が手を挙げたら安倍派が割れる。消去法で担ぎやすいのは茂木氏です。茂木派、安倍派、麻生派、岸田派の4派で茂木氏を担げば、二階派も菅グループも茂木氏につくでしょう。ただし、茂木氏は人望がないのが大問題。役人に聞いても、茂木さんは威張り腐っているという評価で、良いといった人は誰もいない。それほど自民党の人材不足、劣化ぶりはひどい」
一方、角谷氏は「キーマンは石破茂元幹事長です」と言い、こう解説する。
「“終わった人”という印象があるかもしれませんが、メディア各社の世論調査の『首相にふさわしい人』では軒並み河野氏に次いで2位。党の総務会でも、自身が大臣を経験した防衛、農水、地方創生がテーマのときは必ずきちんと持論を展開している。このままで自民党は大丈夫かと思う人は、石破さんに注目すると思う」
誰が首相になろうとも、今、日本が直面する難局を乗り越えることは並大抵の努力では不可能だ。自民党岸田派幹部は「長期政権なんて考えてはいけない。一つひとつ、目の前のことをしっかりやるしかない」と話す。首相にこの言葉が届いていなければ、23年の今ごろ、永田町には「新しい景色」が広がっているだろう。(本誌・村上新太郎)
※週刊朝日 2023年1月6−13日合併号