岸田文雄首相にとって2022年の始まりは、前年の衆院選で大敗せずに及第点を獲得し、長期政権を目指して参院選に望みをかけるという意気込みが伴っていたに違いない。だが2月にはロシアによるウクライナ侵攻があり、7月には安倍晋三元首相が銃撃されるなど、波乱ずくめの一年となった。では、2023年はどうなるか。残念ながら、明るい材料はほとんどない。

 実際に12月17日と18日に朝日新聞が行った世論調査によると、内閣支持率は前月比6ポイント減の31%で、不支持率は同6ポイント増の57%。前者は岸田政権発足以降の最低記録で、後者は第2次安倍内閣以降で最高記録となった。ちなみに2022年は1月の内閣支持率49%、不支持率21%からスタートし、支持率の最高は5月の59%だったが、12月にはそこからだいたい半減したことになる。

 それでも政権が揺らがないのは、党内に有力候補が不在で、野党の支持率も芳しくないためだ。「ポスト岸田」として6人の政治家の名前を事前に挙げた同調査でも、24%が河野太郎デジタル大臣、15%が石破茂元幹事長、9%が高市早苗経済安全保障担当大臣、6%が菅義偉前首相、さらに茂木敏充幹事長と林芳正外務大臣についてそれぞれ2%が「次期首相にふさわしい」と答えたが、37%が「この中にはいない」と回答している。

 岸田首相にとってライバルの不在こそ、最大の追い風だろう。岸田首相は年明けに訪米し、年末に「反撃能力」などを盛り込んで改定した「防衛3文書」を“手土産”に、バイデン大統領と会談の予定だが、さらにイギリス、フランス、イタリアへの歴訪を調整中。5月の広島サミットの準備のためというが、これで閉会中といえども、国会での大きな動きを封じることができるに違いない。

  さらに年明けの「内閣改造」の噂も出ていたが、岸田首相は問題はなるべく早く除去する方がいいと考えたのだろう。さっそく12月27日には「政治とカネ」の問題に加えて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や「影武者疑惑」などを抱えた秋葉賢也復興大臣を更迭し、過去のLGBTに対する差別的発言などを立憲民主党から追及された杉田水脈(みお)・総務政務官も辞表を提出した。

 しかし大規模改造はリスクが伴う。実際に8月の内閣改造は身体検査が十分ではなかったため、旧統一教会との関係をあやふやにしていた山際大志郎前経済再生担当大臣や「政治とカネ」問題を抱えていた寺田稔前総務大臣の入閣を許すことになった。閣外から新たに大臣を任命するとなると、完璧な身体検査が必要になるが、自民党は旧統一教会との関係についての党内調査すら十分に行うことができず、“漏れ”が残って問題となった。新たに就任する大臣が「クロではない」と誰も保証はできないのだ。

 岸田首相は同日のテレビ番組で「年末年始やその周辺では今、私の頭の中にない」と早期の内閣改造を否定したが、「何カ月先も考えてないという意味ではない」とも述べて含みを残した。これは適宜に人事権を行使して、閣内や自民党内を引き締めるということだろう。岸田首相の目下の関心は、安倍晋三元首相というリーダーを失った最大派閥の清和会がどうなるかということに違いない。清和会は次の会長職をめぐっては萩生田光一政調会長と西村康稔経済産業大臣らが争っているが、彼らにポストを与えてうまく取り込んでいれば、所属する国会議員が100人近い清和会を押さえることができるのだ。

 そうした意味では、秋葉氏の後任として同じ平成研所属の渡辺博道氏を任命したことも理解できる。党内最大派閥の清和会を牽制(けんせい)するためにも、第2派閥である平成研の勢力をそぐことは得策ではないからだ。なお党の経理局長だった渡辺氏は茂木敏充幹事長が会長を務める平成研を支える副会長でもあり、派閥内をまとめきれない茂木氏に恩を売る人事ともいえるが、一方では23年春の統一地方選を前に、党の資金面で平成研を牽制する意味もあるだろう。

 このように人事を微調整しながら存続を図っていくのが、「人事の岸田」のやり方だ。なお閣僚就任の理由付けとされる「適材適所」はあくまで政権にとって都合のいい配置であり、議員の能力に従うものではないことは明らかだ。

 そうした岸田人事のうちの一つとしてささやかれているのが「国民民主党の与党入り」だが、それでは存在感が薄れてしまう公明党がいい顔をしないだろう。そもそも衆参合わせて所属の国会議員が20人にすぎない国民民主党に大臣ポストを与えることは、衆参合わせて59人の所属議員がいながら大臣ポストを一つしか持たない公明党が納得するはずがない。自民党にとっても、党勢が衰えつつあるとはいえ22年の参院選比例区で618万票を獲得した公明党を捨て、316万票の国民民主党と組むというのは、得策ではない。衆院選の各小選挙区での影響力では、両党の格差は拡大する。

 統一地方選で大過がなければ、岸田政権には「黄金の3年間」が保証されるだろう。もっとも「防衛増税には民意を問うべきだ」との声には応じなければならず、岸田首相もテレビ番組で「(増税の)スタートの時期までに選挙があると思う」と述べたが、ウクライナ戦争に積極的なアメリカのバイデン大統領や他の西側首脳らとの“協力”でもって、なんとか乗り切ろうとするのではないか。北朝鮮から飛んでくるミサイルの数が増え、台湾海峡が不安定化すれば、国民の不安は増大し、防衛増税についての批判は少なくなるはずだ。

 同時にやらなければならないのは国民所得を増やすことだが、てっとり早いのは円高を誘導して、ドルベースでのGDPを増やすことだ。インフレ対策のために各国の中央銀行が利上げする中で、相変わらずゼロ金利政策に固執していたのが黒田東彦日銀総裁だが、日銀は12月20日の金融政策決定会合で長期金利の変動幅を従来の0.25%から0.5%に修正。これを受けて為替は1ドル当たり5円ほど円高に振れた。

 日銀の決定に政府が直接介入することはできないが、総裁の人事権は政府が握る。もちろん国会の同意は必要だが、物価上昇を招くドル高を歓迎する国会議員はいないだろう。

 防衛増税に反対する国民は多いが、防衛費増強に反対の意見は少ない。これをうまく乗り切れば、岸田政権は保守層を含めて広く国民の支持を得ることができる。岸田政権にとって23年は課題が多い一年になるだろうが、長期政権も夢ではなくなる。まずは足元に気をつけることだ。スキャンダルのタネは閣僚ばかりではない。

(政治ジャーナリスト 安積明子)

■あづみ・あきこ 政治ジャーナリスト。兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)