岸田文雄首相は23日、衆議院本会議で施政方針演説を行った。「子ども・子育て政策」は最重要政策だとし、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と意気込みを語った。同日、自民党の茂木敏充幹事長は児童手当の所得制限の撤廃や第2子以降の支給額の上積みについても前向きな意向を示し、SNSでは歓迎の声が上がった。しかし、これに異を唱えているのが、独身研究家の荒川和久氏だ。荒川氏が「子育て支援は効果がない」と主張する理由を聞いた。

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――岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」について、荒川さんは「効果がない」と主張されています。その理由を教えてください。

 端的に言えば、子育て支援にはなるが、少子化の対策にはなっていないからです。やろうとしていることが、少子化対策としては的外れなのです。

 これはデータを見れば明らかです。

 子育て支援は、これまでもずっと行われてきました。1980年に家族関係支出のGDP比は0・46でしたが、それが2019年には1・73にまで増加しています。

 他方で合計特殊出生率(以下、出生率)は、80年の1・75から、19年には1・36と減少してしまいました。

 約40年間で家族関係支出を4倍も増やしたのに、出生率は減っている。政府支出を増やしたからといって、必ずしも出生率が改善される直接的な因果関係があるとは言えないことがわかります。

 一方で、結婚した女性が産む子どもの数に関して、「完結出生児数」というものがあります。これは結婚期間が15〜19年の夫婦の平均子ども数ですが、1972年で2・2人、21年でも1・9人となっています。減少傾向ではありますが、およそ2人の子どもを産んでいることになります。

 また別のデータでも、この60年間、第1子、第2子、第3子が生まれる比率は、変わっていません。結婚した女性はこれまで通り子ども産んでいるということです。

 それなのに、政府が今やろうとしている子育て支援は、子どもをもう一人生んでもらおうとしている。今でも平均で2人の子どもが産まれていますから、3人目以上を産んでもらう政策になる。これはなかなか大変な話でしょう。

 もちろん、子育て支援は少子化があろうとなかろうとするべきだと思います。ただ、子育て支援によって日本の少子化が改善されることはないということです。

 ――では、何が少子化の原因なのでしょうか。

 それは子どもを産むお母さんが減っているということです。私はこれを「少母化」と言っています。

 そもそも、国勢調査によると、出産が可能とされる女性の15〜49歳人口は90年の3139万人をピークに減少し、20年には2430万人になっています(年齢不詳除く)。

 さらに、結婚しない人もどんどん増えている。80年代までは生涯未婚率は男女ともに5%以下でしたが、90年代以降から生涯未婚率が上がり、20年には男性で28・3%、女性で17・8%になっています。

 結婚して出産するという絶対人口が減っている以上、出生数は上がらないし、出生率も上がらない。その事実は認識すべきでしょう。

 減ることは不可避だが、その減る幅を少しでも小さくする努力をするべきです。それが本来の少子化対策だと思います。

――政府はどうするべきですか。

 まず、婚姻数に目を向けるべきです。

 私が独自に見ているデータとして、「発生結婚出生数」というものがあります。これは婚姻数に対してどれくらいの出生があったかを示すものです。このデータを見ると1婚姻あたり、1・5人の子どもが生まれていますし、90年代からその数字は変わらない。つまり、2人を3人に増やすことよりも、結婚によって0人を1・5人にした方が出生数はあがります。

 未婚には2種類あり、一つは結婚の必要性を感じない人、もう一つは結婚したいのにできない人で、「不本意未婚」です。問題なのは、この不本意未婚です。データを見ると、この「不本意未婚」が4割います。ここの対策に力を入れるべきです。

――「不本意未婚」の原因はなんでしょうか。

 理由はさまざまですが、経済的余裕がないことは大きいと思います。給料が少ないし、上がったとしてもすずめの涙ほどしか期待できません。それ以上に税、社会保障費があがって、可処分所得がどんどん減っていく。「いつになったら結婚できるか」と考えながら、時間だけがすぎてしまう。

「貧すれば鈍する」で、生活に余裕がないと趣味を楽しもうとか、恋愛をしようとか、そんな考えが起きなくなります。

 内閣府の「子供・若者の意識に関する調査」を見ると、自分の将来に出世も経済的裕福さも望めないと考える若者が6割以上になっていることがわかります。

 この背景にあるのは、日本経済の不景気感でしょう。経済が不景気だと、若者の気持ちまで沈み込んでしまう。

 少子化対策として政府がまずすべきことは、世の中の景気を良くして、若者の進むべき道を明るくしてあげることです。

 また、重要なのは、若者が若いうちに結婚をしてもいいと思えるような社会環境をつくることです。

「出生動向基本調査」から、恋愛結婚するための「限界出会い年齢」(結婚する相手に出会える割合が5%以下となる年齢)を割り出してみると、男女ともに25歳までに出会うと半分が結婚しますが、28歳では4人に1人しか結婚していません。34歳までに結婚しないと、そのまま未婚である可能性が高まります。

 かつて樹木希林さんが「結婚は若いうちにしなきゃだめなの。物事の分別がついたら結婚できないんだから」と言っていましたが、その通りだと思います。

 ここ数年はコロナ禍で出会いの機会を失った大学生も多いと思います。経済環境も厳しい。

 ここの対策をしないと少子化に拍車がかかるでしょう。

 子育て支援と聞いて、「とにかくなんでもいいから、バラまいてくれればいいよ」と短絡的に考えている人もいるかもしれませんが、政府も、国民にあげた分は、かならず回収しようとする。結局は今の子どもたちの将来の負担となる。借金をしていないのに、借金を背負わされるようなもので、これではますます未婚化も少子化も進んでしまいます。

――政治はなぜ「少母化」対策に言及しないのでしょうか。

 結婚や出産に関しては、政治家が「結婚しなさい」「産みなさい」と受け取れるようなメッセージを出すと、反感を招きやすい面があります。その点「子育て支援」は誰からも文句は出ません。

 ただ、実は20年5月にまとめられた「少子化社会対策大綱」では、重点政策として、1番最初に「若い世代が将来に展望を持てる雇用環境等の整備」、そして2番目に「結婚を希望する者への支援」が挙げられていました。これまでの大綱でも結婚や雇用への支援への言及はありましたが、子育て支援が一番に挙げられており、この順序逆転は画期的なものでした。

 これは少子化対策として正しい課題認識です。ただ、その大綱の方針は残念ながら、今なお実現されていません。

 野党も政府・自民党と同じことを言うのではなくて、本質的な課題を指摘するべきです。

 人口推計では、2100年に日本の人口は6千万人になります。こうした現実を見据えた国家運営を考えてほしいものです。

――「出生動向基本調査」では、理想の子ども数を持たない理由として、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えた人が56%いました。

 子育ては本当にお金がかかります。ただこれは、世帯年収が500万円の家庭でも、2000万円の家庭でも同じように不満が出てきます。子育てに関しては、惜しみなくお金をかけたいというのが親心というものだからです。

 調査の数字は、この意識が表れているのだと思います。

 お金を出したらもう一人産むかというと、そういったことを証明するデータはありません。

 フランスやフィンランド、スウェーデンなどGDP比で家族関係支出を日本以上に出している国でも、出生率は軒並み落ちています。日本よりも支出率が高くても、出生率が低い国もあります。

 フランス国立統計経済研究所は、出生率の低下の要因の一つに、出産・育児年代にあたる女性の減少、まさに「少母化」を指摘しています。

 政府がお金を出すことと子どもを産むことに強い因果関係はない。少子化対策には若者に目を向けるべきだというのが私の考えです。

(聞き手/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

◎荒川和久(あらかわ・かずひさ)
独身研究家、コラムニスト。大手広告会社において、企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当。その後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者として活躍。著書に『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』など