プロ入り8年目で通算50勝を達成した菊池雄星(西武)が今季、12試合で7勝2敗と抜群の安定感を誇っている。防御率1.43は12球団の先発投手でトップの数字だ。投げている球の質を見ても、球界屈指のレベルにある。



 そんな菊池の進化を物語る数字が、与四球率だ。9イニングあたりにどれだけの四球を与えたかを示すもので、パ・リーグの主な投手と比べてもまるで遜色ない。

ウルフ(西武)1.36
美馬学(楽天)1.40
岸孝之(楽天)1.84
千賀滉大(ソフトバンク)2.16
則本昂大(楽天)2.31
菊池(西武)2.44
東浜巨(ソフトバンク)2.81
バンデンハーク(ソフトバンク)3.45
金子千尋(オリックス)3.65
(今季の成績は6月19日時点、以下同。)

 防御率2〜4位の美馬、岸、ウルフには及ばないものの、千賀、則本とは近い数字だ。

 菊池自身による年度別の与四球率を見ても、著しく改善されている。

2013年:3.67
2014年:5.25
2015年:3.72
2016年:4.22
2017年:2.44

 プロ入り当初から投球フォームを模索してきた菊池は、2014年にリーグ最多の78与四球を記録したように優れた制球力を備えるわけではなかった。だが、ここ数年で投げ方が固まってきたことで思うようにボールを操れるようになり、それが心の安定につながった結果、今季は勝利数、防御率、与四球率ともにハイレベルの数字を残している。

「去年とはコントロールが全然違いますよね。確かに良くなっています」

 そう語るのが、菊池のデビュー以来コンビを組んできた捕手の炭谷銀仁朗だ。“女房役”の信頼がいかに高まっているのかを示す意味で、6月9日のDeNA戦で興味深い配球があった。0ー2から3点を奪って逆転してもらった直後の8回表、先頭打者の桑原将志に対する場面だ。

 右打者の内角低めにスライダーが2球続けて外れて2ボール。言わずもがな、リードしてもらった直後の先頭打者を出すわけにはいかない。四球で歩かすなど言語道断だ。

 ここで炭谷は再びスライダーを内角低めに要求し、菊池はストライクを奪った。続く4球目も同じコースに同じボールのサインが出て、少し高めに行ったもののレフトフライに打ち取っている。

「初めの2球がとんでもないボール球だったら(次に要求する球種やコースを)変えていたかもしれないけど、際どい球だったからボールになることは考えなかったですね。4球目は(レフトの)外崎(修汰)の守備位置を見ていたので、あそこに飛ぶと思いました」

 つまり、計算し尽くされたアウトだったわけである。

 スライダーへの信頼が高いからこそできたリードであると同時に、ストレートに強い桑原を確実に抑えるための配球でもあった。この試合の2回、決して長打力のあるわけではない田中浩康に初球のストレートを狙われ、先制2ランを打たれたことも背景にある。炭谷が語る。

「いくら(桑原が)真っすぐに強いと言っても雄星の真っすぐなら勝てる可能性がありますけど、それにしても2ボールで真っすぐに合わせて1、2、3で振られたらね。(田中)浩康さんに行かれているだけに、ホームランというリスクはあったので。スライダーならホームランはない、という判断です」

 菊池最大の武器はうなりをあげるようなストレートで、桑原の2打席目には外角低めに150キロのボールを投げ込み空振り三振に仕留めている。

 しかし、プロの打者がストレートだけに照準を絞れば、いくら菊池のような剛球でも弾き返されることは珍しくない。そのリスクを防ぐには、変化球を効果的に使うことが求められる。そうすることで、ストレートの威力も増していく。

 こうした奥深い攻め方をできるようになったからこそ、菊池は安定感を増してきたと炭谷が指摘する。

「こっちが真っすぐ、スライダーを中心に行くなかで、バッターとしては真っすぐを打ちにくるわけじゃないですか。それで空振りは取れなかったんですけど、去年の最後の方からカーブを使い出して、それから真っすぐで空振りを取れ出しました。単調なリードというわけではないですけど、よほど苦しいボール先行カウントでも、(空振りの取れる)真っすぐで行けば、ある程度勝てるという計算が立っています」

 練習やトレーニングを積み重ねてストレートの威力が高まったことに加え、フォームが安定したことでスライダー、カーブの精度が増した。菊池の最大の武器がストレートであることに変わりない半面、苦しいカウントでも変化球でストライクを取れると見せつけておくことで、いざという場面で力勝負に行ける。つまり、絶対的かつ相対的に、菊池のストレートはレベルアップしているのだ。

 そうしてバッテリーが主導権を握れば握るほど、相手打者の“自滅”も増えていく。炭谷が証言する。

「今年は真っすぐ、変化球に関係なく、圧倒的に相手のボール振りが増えています。去年みたいに見逃されていないですね」

 空振りの取れる球はバッテリーにとって最も安全であり、打者にとってはこの上なく厄介だ。ボールにバットが当たらなければ、何も起こる可能性がない。打者が何とかバットに当てようと早めに仕掛ければ、バッテリーはそれを逆手に取ることもできる。そうした好循環が、今季の菊池の好調の裏にあると炭谷は言う。

「今年の雄星はフォアボールが少ないから、それだったら相手は手を出してくるし、変化球のボール球を振ってくれる。いろいろうまいこと回っているんじゃないですか」

 リーグ上位の与四球率は、単にコントロールが良くなったというだけの話ではない。現在の菊池雄星が球界トップレベルの投手である、何よりの表れだ。(文・中島大輔)