東京五輪を目指すシンクロ日本代表が世界水泳選手権(ハンガリー・ブダペスト、7月14日〜)でメダルを獲得できれば、東京の表彰台への道が開ける。

 昨夏のリオデジャネイロ五輪で8年ぶりにメダルを獲得し、長い暗闇を抜けたシンクロナイズドスイミング日本代表。演技で大きな失敗があまり起こらず、一度出来上がった序列が崩れにくいシンクロにおいて、五輪後の世界選手権での成績は大きな意味を持つ。五輪が終わると各国とも選手・コーチ陣が入れ替わり、新チームで臨む最初の大きな世界大会での結果は、次の五輪での成績に直結するのだ。

 百戦錬磨の井村雅代日本代表ヘッドコーチは、この世界選手権の重要性を熟知している。リオ五輪のデュエット、チームで銅メダルを獲得した三井梨紗子(東京シンクロクラブ)をはじめ、大型の代表選手が抜け、小型になったチームを率いて臨む世界選手権にあたり、井村コーチがとった作戦はリオと同じルーティンを演じることだった。

 リオでメダルをとった演目を再び泳ぐことにより、世界のトップに戻った日本をアピールすると同時に、「あくまでもリオの時の目指すものがひとつあって、それを超えなければいけない」(井村コーチ)という目安を、新たに代表入りしたメンバーに示すやり方だ。

 井村コーチが挙げるチームの課題は「高さ」。水面から出る体の体積が小さいと、存在感に欠ける。小柄な体がもたらすハンディであることは明白だが、井村コーチは上体を鍛えることで「高さ」を手に入れるべく、グアムや大阪での合宿でチームを鍛え上げてきた。

 デュエットでは、引退した三井に代わりエース・乾友紀子(井村シンクロクラブ)と組むパートナーにテクニカルルーティン(以下TR)では中村麻衣(井村シンクロクラブ)、フリールーティン(以下FR)では中牧佳南(井村シンクロクラブ)が選ばれた。乾は、世界選手権壮行試合として4月に開催されたジャパンオープンで 「それぞれのペアでの良さというのは違うと思うんですけど、また違った一面を見せていけると思うので、テクニカルでは技術を見せて、フリーでは音楽の抑揚に乗って泳げるように頑張ります」とコメントしている。

 TRとFRが別種目扱いの世界選手権と違い、五輪ではデュエットメンバーは二人に絞られるが、五輪後初めての国際大会となった昨年11月のアジア水泳選手権大会から井村コーチは「三人体制」をとっている。東京五輪を見据え、じっくりとデュエットを育てていく方針だ。技術力が問われるTRには「テクニックはとても上手い」と評価する中村、表現力も評価されるFRには、乾と組むと「綺麗な」デュエットになるという中牧を抜擢。チームでもリフトの際にジャンパーとして活躍する中村に対し、中牧はリオまでは「チームでも足を引っ張っていた子」(井村コーチ)だったという。

 しかし、井村コーチも認めるたゆまぬ努力でコツコツと力をつけた中牧は、井村コーチに「化けたかな」と言わせるほどの急成長を見せている。ブダペストで、三人のうち誰が泳いでもメダルを獲れると世界に示せれば、東京の表彰台への視界は一気に開けてくるだろう。

 リオ五輪代表であり、今はチームのまとめ役を務める丸茂圭衣(井村シンクロクラブ)は「日本はメダルを獲れる国だ、という認識になってきているので、それを絶対に手放してはいけない。世界水泳ではメダルはもちろん、昨年よりもいい色のメダルを目指してやっていきたいと思います」と語っている。メダル死守の目標にとどまらず、表彰台をもう一段上がることを目指す新生マーメイドジャパンが、初めての大舞台に立つ。(文・沢田聡子)