「次は中南米だ」と“リトル本田”が囁いたのかもしれない。ニッポンの千両役者が現れたのは強豪国メキシコのクラブ。物語はまだまだ、続く。

 去就が注目されていたサッカー日本代表FW本田圭佑(31)。前所属クラブのACミランとの契約は6月末で切れていたが、メキシコ1部リーグのパチューカへの移籍が決まった。

 ACミランからの退団が正式発表される前から、移籍先候補としてスペインのレバンテ、イングランドのハル・シティなど様々なクラブの名が挙がった。7月に入ると、米MLSの下部リーグのオレンジ・カウンティの練習参加や、トルコのガラタサライとの契約が間近に迫っていることなども伝えられていた。しかし、本田が選んだのは、全く予想されていなかった中南米メキシコのクラブだった。

●「ルーティンは嫌い」

 ただ、以前から本田が口にしていたこんな言葉もある。

「同じルーティンは嫌い。常に未開の地みたいな、自分を知らないエリアに行くのが好き」

 そこから考えれば腑に落ちる移籍先にも思える。元来2010年1月から4年間プレーしたロシアのCSKAモスクワで、サッカー選手としての地位を確立したキャリアの持ち主だ。なじみのない場所から新たなチャレンジを始めるのは、常に成長や刺激を求め続けてきた本田らしい選択、と言えるかもしれない。

 本田の契約条件は、期間が1年、年俸はクラブ史上最高額の4億5千万円(推定)と報道されている。数多くのオファーを蹴ってパチューカ行きを決めた理由については、入団会見でこう話したという。

「来年のワールドカップでプレーする可能性を広げるため。メキシコは刺激的でいいチャレンジになる」

 昨季は所属クラブで出番を失い、日本代表でもスタメン落ちを経験。まずは出場機会を確保し、コンディションを取り戻すことを重視したのだろう。またこんな狙いもありそうだ。

 パチューカは北中米カリブ海王者として、今年12月にUAEで行われるクラブW杯へ出場する。クラブW杯には欧州王者のレアル・マドリードも出場を決めており、そこで活躍すれば、再び存在感を世界にアピールする機会になるからだ。

●環境になじめるのか

 背番号は「02」。Jリーグなどでは1桁の番号に0を付ける慣習はないが、メキシコではこうした表記が伝統的だ。2番にした理由については、世界平和を意識し、2とPEACE(平和)サインをつなげたという。日本代表での4番と同様、攻撃的選手が2番を付けることは珍しく、これも独自の感性を持つ本田らしい選択なのかもしれない。

 地元メキシコメディアも「日本のビッグスターに期待」「ホンダはメキシコリーグの目玉になる」と歓迎ムード。だが日本人にとってメキシコリーグはやはり未知数だ。

 パチューカは6度のリーグ優勝を誇る強豪だが、首都メキシコシティから約80キロに位置する地方クラブでもある。標高約2400メートル(富士山の5合目と同程度)にあり、空気が薄いため、空気抵抗も小さく、ボールの弾みなども違うとされる。本田自身も「気圧は違いすぎる」と話しており、慣れるまでは時間がかかる可能性もある。現地メディアのトム・マーシャル記者も「ホンダの才能は知っている。だが活躍できるかどうかは、環境にうまくなじめるかがポイントになるだろう」と指摘。代表の活動を考えれば、日本との往来が欧州以上に負担となりかねないとの危惧もある。

 ただ強靱な体が活躍の大前提となるのがメキシコのサッカー。フィジカルの強い本田はこの点では申し分ない。同リーグは7月21日に前期リーグが開幕。パチューカは23日(日本時間24日)に初戦を迎え、本田のデビュー戦は29日(同30日)の第2節以降とみられている。ロシアW杯までは1年を切ったが、本田は新天地で“失った立場”を取り戻すことができるか。

(スポーツライター・栗原正夫)

※AERA 2017年7月31日