高校野球で使われる硬式球の縫い目は「108」と決められている。これは仏教でいうところの、人間の心身にまとわりつき、かき乱す煩悩の数と同じだ。

 そして、早稲田実の清宮幸太郎がこれまでの高校通算最多本塁打に肩を並べ、決勝の舞台で新記録樹立に挑む数もまた「108」である。

 考えてもみれば、高校1年から注目を集め、衆目にさらされる中で野球を志してきた清宮の2年半は、思春期の高校生なら誰もが抱える煩悩をひとつずつ捨て去っていく毎日だったのではないだろうか。

 7月28日、西東京大会準決勝の八王子戦。プレーボールの直前、円陣の中心にいた清宮は仁王像のような表情で仲間を鼓舞していた。さらに試合が始まり、1回に先頭の橘内俊治の身体にボールが当たると、橘内はガッツポーズしながら一塁へ駆けていく。早稲田実ナインの気合のノリが、準々決勝までとは明らかに違った。

 清宮は言う。

「(準決勝までの)空いた2日間で、『このままの雰囲気じゃダメだぞ。お前ら飲み込まれるぞ』という話をしました。監督さんからも『ギラギラしたものがない』と言われていた。自分たちなりに、いろいろなやり方で、気合をしっかり入れてきました(笑)」

 八王子は、ちょうど1年前の西東京大会準々決勝で敗れた因縁の相手である。自ら志願して主将となった清宮は、新チームが発足した最初のミーティングで、「この負けを糧にしよう」と伝えた。

 開会式で「野球の神様に愛されますように」と宣誓した清宮流に言えば、八王子との対決は、野球の神様が1年の時を経て用意したリベンジの舞台だった。

「ここで勝たなければ、自分たちがこの1年取り組んできたことの正しさが証明されない。自分たちがしっかり成長したことを示すためにも勝たなきゃいけない。そういう意味では、これまで(戦った相手)とはぜんぜん違いました」

 清宮の107号が飛び出したのは1点差に迫られていた7回。準決勝までに放った3本塁打は、いずれもこすった当たりで、滞空時間の長い飛球だったが、弾道の低いライナーで左中間スタンドに飛び込んだ。早稲田実は4―1で雪辱を果たし、決勝へ駒を進めた。

 一方、最大のライバルと目されていた日大三は準々決勝で敗れ、勝者の東海大菅生が決勝の相手となった。昨秋と今春の東京大会決勝で対戦した日大三の敗戦は、清宮にとっては大きなショックだったという。

「あんな精鋭ぞろいの三高(日大三)でもやられちゃうんだ、って。明日は我が身というか……。三高のみんながいたから自分たちもここまで成長してこられた。対戦はかなわないけど、負けた姿からも学ぶものがありました」

 決勝は30日の午後1時から。大勢の観客で膨れあがる神宮球場で、108本の新記録樹立と、甲子園切符の獲得に挑戦する。準決勝を終え、清宮は言った。

「決勝は今日(準決勝)ぐらい気合をぶつけていって、すべて出し切って。次勝ってこそ、達成感は得られると思います」

※週刊朝日  2017年8月11日号