“Hired Gun(雇われガンマン)”―――。トレード期限間際、期間限定で獲得される契約最終年のスター選手をメジャーではそんな風に呼ぶことがある。

 現地時間7月31日、レンジャーズからドジャースへの電撃トレードで移籍したダルビッシュ有も、まさに最高級の“雇われガンマン。今秋、ドジャーブルーの背番号21は間違いなく重要なマウンドに立つはずである。

“ドジャースはダルビッシュを獲得する必要に迫られたわけではなかった”

 現在30歳の右腕の獲得が決まった際、アメリカ国内ではそんな報道がなされた。今季のドジャースは7月に21勝3敗と圧倒的な強さを誇示し、ナ・リーグ西地区では2位ロッキーズに14.5ゲーム差をつけて独走中。地区優勝は間違いなく、もともと先発陣の防御率もメジャー1位だけに、先発投手をどうしても補強しなければいけない状況ではなかった。

 それでもダルビッシュ獲得に動いた要因は2つ。まずはメジャーNo.1左腕と称されるクレイトン・カーショウが7月23日に腰の痛みを訴え、故障者リスト入りしたこと。カーショウはプレーオフに間に合うと目されているが、長引く可能性はゼロではない。エースが長期不在になったときのためにも、今季はやや数字を落としていても、本来はエリート級の力を持ったダルビッシュという保険を得ておくに越したことはない。

 そして、もう一つ。今季の戦力充実ぶりを見て、ドジャースの首脳陣も“今年こそ1988年以来の優勝を手にする年”と見定めているのだろう。

 打線にもコーリー・シーガー、コディ・ベリンジャー、ジャスティン・ターナーといった役者が揃い、西海岸の雄は順風満帆。だとすれば、実に29年ぶりの王座奪還に向けて、多少の出血(=複数の有力プロスペクトの放出)をしてでも万全の準備をしておくべき。ダルビッシュの獲得は、シーズン中ではなく、よりレベルが上がるプレーオフの戦いを睨んだ上でなされた補強だと考えるのが妥当に違いない。

「ダルビッシュ、アレックス・ウッド、リッチ・ヒルがプレーオフのローテーションに加わり、カーショウはもう中3日で先発する必要がなくなる」

LAタイムズ紙のディラン・ヘルナンデス記者がそう記す通り、プレーオフではカーショウ(今季15勝2敗、防御率2.04)、ウッド(今季12勝1敗、防御率2.38)、ダルビッシュ、ヒル(今季8勝4敗、防御率3.35)という4人でローテーションを形成することが濃厚だ。3枚の左腕を含む、実績ある4本柱は脅威。ただでさえ評価の高かったドジャースが、ダルビッシュまで加え、これでワールドシリーズ進出の本命扱いを受けることは間違いあるまい。

 今季終了後、ダルビッシュとドジャースの再契約は十分に考えられ、単なる“雇われガンマン”では終わらないかもしれない。ただ、例え数ヶ月限りで去ることになったとして、久々の世界一に貢献してくれるなら獲得する価値はある。金満球団ドジャースの上層部に、そんな考え方があったことは容易に想像できる。

 一方、ここまで見てきて、前田健太の名前が登場しないことに気づいた人も多いはずだ。8月1日のブレーブス戦に勝って4連勝となり、前田はすでにチーム内3位の10勝に到達した。本来であれば先発の一角を務めるのに十分な働きと言える。ただ、防御率3.79はカーショウ、ウッドにはかなり見劣りし、17先発中でクォリティスタートが4度だけという成績も少々物足りない。

 ダルビッシュという新戦力の加入で先発要員が増え、しかもドジャースは他にも柳賢振、ブランドン・マッカーシー(現在DL 入り)といった実績ある投手を擁している。層の厚いチーム内で、前田がシーズン終盤まで先発の役割を守りきれる保証はない。頭数は4人で足りるプレーオフに関しては、さらなるケガ人でも出ない限り、先発ローテーション落ちが濃厚。もちろんだからといって貢献の手段がないわけではないが、前田の役割、今後の立場は大きく変わり得る。

 ダルビッシュの動向は、このように同国人の後輩メジャーリーガーである前田にも少なからずの影響を及ぼすことになる。様々な意味で、エース級がこの時期に移籍することのインパクトは莫大ということなのだろう。(文・杉浦大介)