台風5号の影響によって、8月8日に開幕日が順延となった第99回全国高等学校野球選手権大会。深紅の大優勝旗に最も近い学校として真っ先に挙がるのが、今春の選抜に続く全国制覇、つまり春夏連覇を目指す大阪桐蔭だろう。

 激戦区大阪を制した日、西谷浩一監督は、選手に「春夏連覇に挑戦しよう」と宣言した。

「選抜で優勝した後、春夏連覇を達成したことのある7校のうち、2度達成した学校がないことを知りました。99回の歴史で、どこの学校もやったことがない記録なら、挑戦してみたい。しかし、春夏連覇を見据えながら勝ち抜けるほど、大阪の戦いは甘くありません。大阪を勝ち抜いて初めて、そういう大記録に挑戦できるスタートラインに立つことができる。そう心に秘めていましたので、大阪大会で優勝した日に、『もう一度、挑戦しよう』と選手に伝えました」

 2012年に春夏連覇を達成した際は、エースの藤浪晋太郎(現阪神)や1学年下の森友哉(現西武)らを前に、西谷監督は努めて春夏連覇を意識させないように配慮していた記憶がある。今回、あえて選手に「春夏連覇」の目標を掲げさせたのは、現有戦力に手応えを感じている証拠ではないだろうか。

「いえいえ、そんなことはありません。謙遜ではなく、突出した力があるチームでないことは自分たちが一番わかっています。ただ、キャプテン(福井章吾)を中心に、気持ちの強いチーム。みんなで寮生活をしていますので、そういう一体感、チームワークを前面に出した野球をやっていきたい」

 選抜時に比べ、エース徳山壮磨の安定感が増した。走者がいなければ“それなり”に、ピンチともなればギアを入れ替えてアウトを重ねていく。徳山より球の速い選手はチームにたくさんいるかもしれない。徳山より変化球が切れる選手もいるだろう。だが、こういう試合を作ることのできる能力に関しては、徳山が随一だ。

 2番手以降の投手の顔ぶれは、2年生が中心となる。選抜の胴上げ投手である根尾昂に加え、チーム一の球威を誇る柿木蓮が大阪大会で台頭し、長身左腕の横川凱も控える。

 打の中心も2年生だ。選抜決勝で2本塁打を放った1番打者の藤原恭大は、夏の大阪大会決勝でも一発を放った。一度、彼の下半身を見てもらいたい。太ももとふくらはぎが尋常でないほど分厚く、それでいて柔らかい。野球をやるために生まれてきたような肉体だ。藤原は言う。

「これまではどうしても上半身で打とうとしている自分がいて、選抜では打率を残せなかった。大阪大会では、下半身で打つことを意識して打席に入ったら、調子が上向いてきた。自分の調子の上げ方をつかんだという意味で、この夏の経験は大きいです」

 さらに藤原には足がある。50メートル走は5秒7。大阪大会準決勝の履正社戦ではライト前ヒットを二塁打にし、四死球で出塁すれば果敢に盗塁を仕掛ける。単打が長打となるのだから、相手にとっては脅威だろう。

「盗塁はすべて自分の判断で試みています。監督からのサインは『走るな』という時だけです」

 西谷監督は藤原を不動の1番に据えてきた。

「まだまだ2年生で、完成された選手でも何でもない。ただ、非常に勢いのある子。のびのびと甲子園で暴れてほしい。藤原らしささえ前面に出してくれれば、あとは3年生がフォローしてくれると思います」

 どうしても藤原や、中学時代に146キロを記録し、スーパー中学生と騒がれて入学した根尾に注目が集まるが、もうひとり、西谷監督の信頼が厚い選手が3番を打つ2年生の中川卓也ではないだろうか。選手の競争が激しく、頻繁にスターティングメンバーが入れ替わる同校にあって、彼がスタメンから外れることはない。

「私は選手全員を信頼しております(笑)。中川に関しては、ミート力ということでいったら、2年生の中では一番ですね。今は一塁を守っていますが、サードとセカンド、外野もできます」

 戦力に穴がなく、控え選手にも能力の高い選手がそろう大阪桐蔭の対抗馬となるのは、3季連続ベスト4の秀岳館に、神奈川大会で4試合連続を含む5本塁打を放った増田珠を擁す横浜。さらにバッテリーが共に、U18ワールドカップに臨む高校日本代表の第1次候補に選ばれている広陵、そして全国最多となる8度目の夏優勝を狙う中京大中京となるだろう。

 しかし、組み合わせ抽選の結果、この4校は同じ「死のブロック」となった。

 このブロックを勝ち抜いた学校が、実質、大阪桐蔭への挑戦権を得ることになるのではないだろうか。(ノンフィクションライター・柳川悠二)

※週刊朝日 オンライン限定記事