「日本のファンタジー・ベースボール(実際の成績を元にしたシミュレーションゲーム)は大谷翔平のスタッツをどう組み入れていたのかな? 投手、打者の両方の数字が加えられたのか?」

 12月上旬、馴染みの米国人記者からそんな質問メールが届いた。このようなメッセージからも、エンゼルスへの入団が決まった大谷への期待度とその特異性が伝わってくる。

 プロレベルで“二刀流”のプレーヤーに関わるのは、メジャーに携わってきた人々にとってもほとんど初めての経験になる。ファンタジー・プレーヤーとしてどう扱うのかもわからないくらいだから、現場の人間の起用法の興味深さと難しさが想像できるというものだ。

 一般的に投手としての大谷は即戦力とみるメジャー関係者が多いようではある。100マイル(約161キロ)以上の速球を投げる日本人右腕のツールの素晴らしさはご存じの通り。特に1年目は、大谷に馴染みの薄い相手打者は適応が容易ではないはずだ。

 また、今オフにエンゼルスは多くの補強を成し遂げ、野手の層が厚くなっているのも大きい。これまではメジャー最高の選手と呼ばれるマイク・トラウトばかりが目立ってきたが、今オフにイアン・キンズラー、ザック・コザートといった実績ある選手も加わった。さらにアルバート・プホルス、ジャスティン・アップトン、 アンドレルトン・シモンズといったベテランたちががんばれば、来季はかなりの援護が期待できる。

 また、打者としての大谷を考えても、ラインナップが分厚くなったことは好材料である。DH(指名打者)での出場時には注目されるだろうが、打線の中で相手投手からのマークが集中するわけではない。すべてがうまくいけば、投手として15勝近く、打者としても週2〜3度DHで先発するとして、70戦程度のスタメン機会で15本塁打程度を記録することは十分可能ではないか。

 ただ、その一方で、渡米1年目から投手、打者の両方でメジャーに挑もうとすることに不安を抱く関係者の声も少なからず聞こえてくる。メジャー某チームのスカウトは、日本より格段に厳しいMLBのスケジュールを懸念材料として挙げていた。


「スケジュールへの適応が最大の難関になる。日本とメジャーでは試合数、遠征時の移動距離も大きく違う。体力的な負荷は比較にならず、“二刀流”にこだわるがゆえの負担の大きさは想像するのは難しい。疲労をためないように、周囲は慎重な配慮が必要になるはずだ」

 日本の1シーズンは143試合なのに対し、メジャーは162試合。約180日程度でこれだけのゲームをプレーするスケジュールの厳しさは実際に半端なものではない。単に日本よりゲームが多いというだけではなく、必然的に休養日も減るわけだから、これは大変な違いである。

 また、移動距離も長く、米国国内の東西移動の距離は札幌―福岡の約3倍。東西3時間の時差がある巨大な国を飛び回り、日本で積み重ねてきたよりハイペースで試合を行うことになるのだ。

 仮定の話だが、エンゼルスが優勝争いをするようなチームになった場合、11月まで多いと180試合以上をプレーすることもあり得る。ただでさえ、どんな選手にとってもハードなのに、大谷が二刀流にこだわり、疲れから徐々にパフォーマンスが落ちた場合、風当たりが強くなることは考えられそうだ。

「一部の専門家は最終的には大谷は二刀流を諦め、どちらかに専念しなければならないと考えている。歴史を作るべく、大谷が限界に挑戦するなら、魅力的な話題になっていくだろう」

 エンゼルスへの入団が決定直後、ESPN.comのジェリー・クラスニック記者はそんな風に記していた。近年では前人未到のことをやるわけで、成功への青写真は米国には存在しない。難しいからこそ、余計に楽しみで、そしてエキサイティング。大谷が広大な米国の大地で挑む“二刀流”は、大げさではなくメジャー史上に残る挑戦と言えるのだろう。(文・杉浦大介)