ロシアW杯まで2カ月と迫った4月7日にヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が電撃解任され、前技術委員長の西野朗氏が新監督に就任した。メンバーのベースに変更がないことを強調する西野新監督だが、「最高の化学反応が起こるグループ」を指針に掲げる。

 “化学反応”というのはサッカーの言葉としては具体性に欠けるが、おそらく相性のいい組み合わせを見いだすことで、選手のパフォーマンスをさらに引き出したいということだろう。戦術的な縛りを多少緩める代わりに、バランスや効果を考えながらユニットを作っていく。もちろん対戦相手は分析するが、新体制におけるベースの型は早急に整備する必要がある。

 その有力なオプションとして考えられるのが2トップだ。ハリルホジッチ前監督もFWを縦に並べる形の2トップを時間帯によって何度かテストしていたが、西野監督はガンバ大阪など、これまで率いたチームの多くで2トップを採用しており、日本人FWの特徴をさらに生かす意味でも本格的な導入に踏み切る可能性が高いと見る。

 もちろん、これまでのメンバーには原口元気や乾貴士などワイドなポジションで、より能力を発揮するタイプのアタッカーもいるが、彼らを4-4-2のサイドハーフとして起用することも可能であり、2トップの導入はチャンスメークの部分で彼らの能力をより発揮しやすい。1トップをオプションとして残しながら2トップも活用していくプランは十分に有用だ。

 どのような形でもFWの主力候補になりそうなのが大迫勇也だ。アジア最終予選を牽引してきた選手であり、力強く柔軟なポストプレーに加えて、ツボにはまれば周囲を驚かすような“半端ない”ゴールを決めることができる。日本代表ではあまり得点を取れていないが、2トップで相棒のFWと互いを生かし合う関係ができれば、よりフィニッシュを狙いやすくなる。

 また、従来の主力でありながら、ハリルホジッチ前監督の下で、なかなか出番を得られなかったのが岡崎慎司だ。一瞬の飛び出しなどはやや斜陽を感じる部分もあるが、起点になるプレーからゴール前に飛び込んでいくタイミングと勝負強さは健在。サイズの問題もあって1トップだと苦しい部分もあるが、大迫のようなタイプと2トップを組めれば、持ち味を発揮しやすい。過去W杯2大会の経験は、この時期に監督が代わった代表を大いに助けられる要素でもある。


 問題は4月に足首を負傷し、所属クラブのレスターでラスト5試合に出場できなかったこと。西野監督が、14日に登録締め切りとなった35人のリストに入れていることはほぼ間違いないが、同じくケガ明けの香川真司などとともにガーナ戦に向けた国内合宿に招集して、状態をチェックして最終メンバーに入れるべきかを見極めるはずだ。

 前体制で岡崎と似た境遇にありながら、現在、より良好なコンディションにあるのが武藤嘉紀だ。4大リーグに所属する日本人選手では最多の8得点を記録している武藤。所属するマインツについて「多くの得点チャンスがあるチームではない」と主張しており、実際に前線で孤立する時間帯も多かった中で立派な数字だ。彼も1トップで大迫に近い仕事はできるが、2トップでフィニッシュの引き出しが増えれば、得点力を発揮しそうな選手ではある。

 他にFWの有力候補として名前が挙がるのは小林悠、杉本健勇、興梠慎三、川又堅碁、金崎夢生といったJリーグを代表するFWたちで、さらに前体制では主に右サイドで起用された久保裕也や浅野拓磨、原口とともにデュッセルドルフのブンデスリーガ2部優勝に貢献した宇佐美貴史も2トップなら中央で有力候補になり得る。

 一方、そうした実績組に割って入るポテンシャルを秘めるのが堂安律だ。昨夏にガンバ大阪からオランダ・フローニンゲンに渡った19歳は、右サイドからの鋭いカットインとミドルシュート、味方とのワンツーを駆使した飛び出しなどで、エールディビジでプレーする20歳以下の選手としては2番目に多い9得点を記録した。

 1位のクラース・ヤン・クライファート(10得点)が所属するアヤックスはリーグ最多の89得点を記録しており、フローニンゲンは50得点という事情も考えれば、堂安がいかに高い得点センスを発揮したかが分かる。得意の左足を存分に生かすにはクラブと同じ右サイドが適しているが、ガンバ大阪時代は2トップでプレーしており、十分に適応は可能だ。大迫のようなポストプレーヤーとの組み合わせが基本となるが、憧れの先輩でもある宇佐美との2トップなどはまさに西野監督が求める“化学反応”を起こし得るコンビだ。


 もう1人、2トップの候補として挙げたいのが永井謙佑だ。現在は技術委員長を任されている関塚隆氏が監督を務めた12年のロンドン五輪でスペインを撃破する立役者となった快足FWは、ハリルホジッチ前監督が就任してすぐの15年3月に代表選出され、夏の東アジアカップでもメンバーに入ったもののアピールに失敗して代表から遠ざかっていた。

 しかし、昨年から所属するFC東京に長谷川健太監督が就任すると、2トップで起用され、ディエゴ・オリベイラとのコンビで抜群のスピードと運動量を発揮。チーム内での役割が整理されているためか、状況判断やフィニッシュにも改善を見せている。すでに29歳と若くはないが、明らかな特徴があるだけに、輝きを取り戻した2トップで再び世界を相手にひと暴れできる状態にある。

 ベースの部分を簡単に変えられないDFラインや中盤と違い、FWは調子のいい選手を優先して選び、起用するのも1つの有効な手段だ。このタイミングでチームを率いることになった西野監督でもあるだけに、これまでの貢献度や実績だけにとらわれず、コンディションや組み合わせを見極め、考え得るベストのチョイスを見いだしてもらいたい。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行予定。