昨年12月22日、新潟県高校野球連盟(以下高野連)は2019年の春の県大会から投手の投球数制限を実施することを発表した。日本高野連は、この発表を受けて2月20日の理事会で審議を行い、この春からの実施については再考を申し入れることになったが、新潟県高野連は3月末まで検討を続けていく方針とのことで、新たなルール作りについて一歩前進したことは間違いないだろう。

 球数制限の導入を巡る議論が巻き起こる大きなきっかけとなったのは2013年春の甲子園。当時2年生だった安楽智大投手(済美)が5試合で772球を投じ、そのことをアメリカのメディアが問題視したことである。2017年春のセンバツでは延長戦が相次いだことから、滋賀学園の棚原孝太投手が192球、東海大市原望洋の金久保優斗投手が218球、福岡大大濠の三浦銀二投手が196球、福井工大福井の摺石達哉投手が193球など200球前後の球数を投じる選手が続出。さらに議論が沸騰した。

 しかし、球数制限の導入だけで、投手の体を守るという問題が解決するわけではない。その理由の一つは、公式戦だけ導入しても、普段の練習や練習試合で登板過多になれば、意味がないからである。少し古い話になるが、1991年夏の甲子園で準優勝投手となった大野倫(沖縄水産)は大会後に右肘の疲労骨折が判明したが、春の時点で既に故障していた状態だったという。大野の一件から甲子園大会前にはメディカルチェックも行われているが、その方法やチェックする人員についても決して十分なものとはいえない状況である。大会前に付け焼き刃的に診断を行うだけでなく、日常的に選手の故障について確認し、適切な指導が行われているかをチェックするような体制を整えることが重要ではないだろうか。

 そして、球数制限以前に取り組むべきなのはやはり日程の問題だろう。今年の夏の甲子園大会からは休養日を1日増やして2日となったが、まだまだ十分とはいえない。先発投手のことを考えると準々決勝からの3試合は最低でも中4日はあけるべきではないだろうか。甲子園球場、プロ野球との兼ね合いで日程をあけることが難しいという声も聞かれるが、レイアウトの変更などはもっと工夫して短時間でできる方法を真剣に考えるべきだろう。


 日程の問題は甲子園大会に限らず、地方大会も同様である。雨で試合が伸びたりすると、地方大会の終盤戦は連戦になることも少なくない。過密日程にならないように春季大会を調整し、夏の地方大会の開幕を早めるなどの措置をとるべきだろう。

 昨年5月には「高校野球200年構想」の5大目標として【普及】・【振興】・【けが予防】・【育成】・【基盤作り】とその目標に紐づく24の事業が発表された。【けが予防】については、けが予防講習会の開催をはじめ、高校生対象の肩肘検診の実施、小中高生対象の継続的な肩肘検診の実施、けがの予防やセルフチェックのための手引書、DVDを製作したほか、野球手帳の製作といった事業が記されている。どのようにこの事業を実施していくかはまだまだ議論が必要だが、このような取り組みが明文化されたことは大きな進歩と言えるだろう。

 特に重要と思われるのが「継続的な取り組み」である。現在野球界では一つの統一した組織がなく、カテゴリーを上がるごとに引き継がれる情報も極めて少ない。どんな経歴があり、どんな成長過程を経ていたかを、運営側や指導者がまずしっかりと把握できるための体制づくりが必要ではないだろうか。発表された内容が絵に描いた餅に終わることなく、幅広い年代に広がりを見せていくことが重要だろう。

 最後に球数制限の具体的な方法についても言及しておきたい。故障を防ぐために何かしらの制限を設けることには賛成だが、「100球」というような一律の決め方には違和感が残る。投手によって個人差があり、150球投げても平気な投手もいれば、80球でも異常が出る投手もいるだろう。そんな個人差がある中で決まった数字にすることは得策とは思えない。故障を防ぎながら選手の納得感を得るためには、投手の健康状況を毎回チェックし、筋肉、骨、靭帯などに何らかの異常が見られた時点かその前に登板をストップさせることが最善ではないだろうか。現在の医療技術では難しいかもしれないが、ベンチ裏に備え付けられるような機器の開発を野球界全体で取り組んでみてはどうだろう。


 球数制限をスタートすることは大きな前進だが、それ以外にも取り組むべきことは少なくないというのが高校野球界の現状である。繰り返しになるが、公式戦で球数制限を導入したから全てが解決するわけではない。2月20日の日本高野連の理事会では外部の専門家を交えた「投手の障害予防に関する有識者会議」を今年4月に発足して議論を進めていくことが発表されたが、その場においては単純な球数制限だけでなく、多角的な方面からの改善案が提示されることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。