いよいよ開幕したプロ野球ペナントレース。今シーズンは巨人、中日、阪神、オリックス、楽天(平石洋介監督が代行から昇格)と5球団が新監督を迎えて開幕することとなったが、全監督の顔ぶれと現役時代のポジションを並べて見ると下記のようになった。



広島:緒方孝市(外野手)
ヤクルト:小川淳司(外野手)
巨人:原辰徳(内野手)
DeNA:ラミレス(外野手)
中日:与田剛(投手)
阪神:矢野燿大(捕手)

西武:辻発彦(内野手)
ソフトバンク:工藤公康(投手)
日本ハム:栗山英樹(外野手)
オリックス:西村徳文(外野手)
ロッテ:井口資仁(内野手)
楽天:平石洋介(外野手)

 野村克也はかつて「外野手出身に名監督はいない」という主旨のことを繰り返し発言していたが、現在は12球団の半数の6球団が外野手出身の監督であり、緒方監督はリーグ3連覇を達成し、栗山監督と西村監督は日本一も経験している。そこで改めて過去10年の優勝、日本一監督を並べると下記のようになる。

2009年 セ:原辰徳(内野手) パ:梨田昌孝(捕手) 日本一:原辰徳(内野手)
2010年 セ:落合博満(内野手) パ:秋山幸二(外野手) 日本一:西村徳文(外野手)
2011年 セ:落合博満(内野手) パ:秋山幸二(外野手) 日本一:秋山幸二(外野手)
2012年 セ:原辰徳(内野手) パ:栗山英樹(外野手) 日本一:原辰徳(内野手)
2013年 セ:原辰徳(内野手) パ:星野仙一(投手) 日本一:星野仙一(投手)
2014年 セ:原辰徳(内野手) パ:秋山幸二(外野手) 日本一:秋山幸二(外野手)
2015年 セ:真中満(外野手) パ:工藤公康(投手) 日本一:工藤公康(投手)
2016年 セ:緒方孝市(外野手) パ:栗山英樹(外野手) 日本一:栗山英樹(外野手)
2017年 セ:緒方孝市(外野手) パ:工藤公康(投手) 日本一:工藤公康(投手)
2018年 セ:緒方孝市(外野手) パ:辻発彦(内野手) 日本一:工藤公康(投手)

 昨年まで指揮を執った高橋由伸監督(巨人)、金本知憲監督(阪神)は確かにチームを優勝に導くことができずに退任となったが、この結果からすると決して外野手出身の監督が優れていないとは言えないだろう。


 捕手はチームの頭脳であり、監督としても優れている。その印象を植え付けたのは間違いなく野村の功績によるところが大きい。解説者時代には当時画期的だったストライクゾーンを9分割した『野村スコープ』を用いて配球を語り、ヤクルト監督就任後はデータを活用した『ID(important data)野球』で黄金時代を築いた。それ以前にも阪急で日本シリーズ3連覇を達成した上田利治、西武で8度のリーグ優勝と6度の日本一に輝いた森祇晶などが捕手出身の名監督として活躍している。近年では近鉄、日本ハムの2球団でリーグ優勝を経験した梨田や西武を日本一に導いた伊東勤なども成功例と言えるだろう。

 しかし、ここ数年の傾向を見ると、捕手出身の監督は意外なほど成功していない。例を挙げると下記のような監督となるだろう。

達川光男(広島):1999年〜2000年(通算122勝148敗・最高成績5位)
古田敦也(ヤクルト):2006年〜2007年(通算130勝157敗・最高成績3位)
大矢明彦(横浜):1996年〜1997年・2007年〜2009年途中(通算259勝328敗・最高成績2位)
谷繁元信(中日):2014年〜2016年途中(通算171勝208敗・最高成績4位)
大久保博元(楽天):2014年途中(監督代行)〜2015年(通算65勝92敗・最高成績6位)

 特に古田、谷繁の二人はチームの黄金時代を築いた正捕手ということでファンからの期待も大きかったが、目ぼしい結果を残すことなく短期間でチームを去ることとなった。今シーズン、同じような立場で就任したのが阪神の矢野監督である。まだ結果をどうこう言う時期ではないが、序盤の戦いぶりを見ていると楽観できるような状態ではないだろう。

 では、かつては捕手出身の監督が隆盛を誇っていたのが、現在では名監督が生まれないと言われた外野手出身の監督が結果を残している、その理由はどこにあるのだろうか。まず一つ目の要因はどのチームもデータの活用が当たり前になり、そのことによるアドバンテージが小さくなったということである。『野村スコープ』として紹介されたストライクゾーンを9分割したものは今ではごくごく一般化されたものになっており、コースごとや球種ごとの打率まで誰でも調べることが可能である。そして捕手という目線から培ってきた野村の配球に重きを置いた手法は、他のポジションの選手であっても当然のように触れるものになっているのだ。


 もう一つの大きな要因は監督の役割の変化である。かつては監督が方針を決め、戦略、戦術を立てる中心となり、チームの編成にまで大きく関与するというのが日本のプロ野球だった。コーチやスタッフの数が少なく、情報化されていない時代には、そのように現場のトップである監督の意向がダイレクトにチームに影響を与えていたのだ。

 しかし、現在のプロ野球はそうではなく、フロントが主導になってチーム作りを行う時代になっているのだ。特に日本ハム、楽天、ソフトバンク、DeNAなどはその傾向が強い。そうなってくると、監督に求められる能力も変わり、プレーの細やかな部分ではなく、コーチ、スタッフ、選手のマネジメント能力が重要視されてくるのである。楽天の平石監督などはそのような点が評価されて監督に就任したタイプと言えるだろう。

 テクノロジーの進化によって急激なスピードで変化していると言われるプロ野球界。その影響は監督の人事や実績にも及んでいることは間違いないだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。