新型コロナウイルスの影響で6月まで開幕が遅れた今季のプロ野球。パ・リーグでは序盤に千葉ロッテがオリックス相手に史上初の同一カード6連勝と派手な勝ちっぷりを見せたが、35試合前後を終えた7月30日時点で首位はソフトバンク。だが、開幕早々から巨人との間で2度のトレードを成立させたことで最も注目を集めたのが、ソフトバンクを追う2位楽天だ。



 その仕掛人となったのは、2018年9月に楽天のGMに就任した石井一久氏。元メジャーリーガーだが指導者としての経験もフロント入りの実績もないまま要職に就いた当初は懐疑的な見方も多く、さらには大量の戦力外通告など非情とも見える手法に批判の声も上がっていたが、ここに来て徐々に石井GMへの評価も変わってきているように思える。

 まず石井GMの主な実績を確認してみよう。1年目のオフにFAで浅村栄斗を獲得したのを皮切りに、牧田和久、涌井秀章ら古巣の西武ゆかりのベテランたちを次々と獲得。新外国人選手のブラッシュや、千葉ロッテから獲得した鈴木大地も大きな戦力となっている。まだ今のところ大きな成果とは言い難いが、福井優也、下水流昂、和田恋などをトレードで次々獲得するなど活発な動きを見せていた。

 一方、19年オフには戦力外や引退などで実に18選手がチームを退団。特にチームリーダーとして求心力のあった嶋基宏や高卒2年目の西巻賢二の放出はファンに衝撃を与えた。

 また、自らが監督代行から正式な指揮官に任命した平石洋介監督がシーズン3位でクライマックスシリーズ進出を果たしていたにもかかわらず、わずか1年で退任したことも波紋を広げた。

 これらに対して、今年のトレード2連発はやや様相が異なる。6月の池田駿とウィーラーの交換トレードは、昨夏の大不振がマイナスイメージなのに加え、今季は前述の鈴木やドラフト1位の小深田大翔の加入などで内野陣の層が厚くなったこと、前オリックスのロメロ獲得などで出番のなくなったウィーラーに新たな活躍の場を与えるという意味合いもあった。その一方で、年俸2億円ながら戦力外のウィーラーを絶妙なタイミングで売り払うというシビアな側面もあった。

 7月の高梨雄平と高田萌生のトレードは巨人から要望があったとのこと。高梨は過去3年で貴重な働きをしたリリーフ左腕だが、どちらかといえばワンポイントで左打者を封じるタイプ。来季以降には事実上のワンポイントリリーフ禁止ルールが導入される可能性があり、渡りに船とばかりに高梨を早めに見切って若手投手と交換したとの見方もできる。

 高年俸の元主力や余剰戦力のベテランを早めに放出し、数年先を見据えて若手を獲得する手法は石井GMがかつてプレーしたMLBではごく普通に行われているやり方。NPBではいまだにトレードというと頭打ちの選手同士が環境を変えるために行われるといったマイナスイメージがあるが、MLBでのトレードとは相手に望まれて移籍する誇りあるものが多い。財政的に高年俸となった主力を抱えきれずに泣く泣く放出する例もあるが、それとても交換相手となる若手たちからすれば、あの大物との交換だという箔がつく。

 またGMという役職についても、NPBとMLBでは権限に大きな差がある。日本ではGM(あるいは編成部門のトップ)と言えども現場を預かる監督の方が影響力が強いことがままあるが、MLBでは明確にGMのほうが監督よりも立場は上。選手獲得やコーチ人事などチーム編成の全てを掌握するのがGMであって、監督とはGMが整えた戦力を駆使して試合で結果を出す前線指揮官でしかない(ただし現場では絶対的な権限が与えられるのが通例)。

 自分との個人的な縁も生かして大物FAを次々と獲得し、トレードも積極的に仕掛けてチームの活性化を図ろうとしている石井GMに対する評価は、最終的に楽天がどこまで勝てるかによって決まる。これは結果がすべてのプロ野球である以上は当然だが、それとは別に現在敷いた布石が将来どこまで生きてくるかもしっかり確認したい。

 生え抜き選手が次々と放出されるとなればファンとして複雑な心境になるかもしれないが、数年後には石井GMの手法がスタンダードになっている可能性もある。そのときは移籍市場の活発化によってプロ野球全体がこれまでとは違った盛り上がり方を見せているのかもしれない。(文・杉山貴宏)