指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第34回は「指導者として心掛けていること」について。



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 今シーズン初の全国大会、第96回日本学生選手権(インカレ)が1カ月後に迫ってきました。

 例年9月上旬に行われていましたが、今年はコロナ禍の影響で練習が思うようにできなかったため、会期を遅らせて10月1〜4日に東京辰巳国際水泳場で開かれます。

 競技会は選手強化の柱です。海外の強豪国では次々に大会が開かれています。新型コロナウイルス感染拡大防止に万全を期して、今後の全国大会開催のモデルケースになるようにしていきたい。

 大会1カ月前はスピード強化の仕上げに入ってきます。学校対抗のインカレではチームの結束力を高めて個々の力を引き上げていく時期です。

 日本代表チームもそうですが、コアになるエース級の選手が全体を引っ張っていきます。私が指導する東洋大ではリオ五輪女子400メートルリレーで8位入賞の内田美希(2017年卒)がチームをリードしていました。インカレ直前のミーティングで「私は絶対負けたくない」と公言し、「みんなで頑張ろう!」とチームを鼓舞します。個人競技の競泳ですが、ともに戦う仲間の存在は大きい。内田はインカレの女子50メートル、100メートル自由形で4年連続2冠。2年のときには50メートル自由形で源純夏(すみか)の日本記録を13年ぶりに更新しました。

 しかし、強い意志を持って何があってもぶれない気持ちで大会に挑む選手ばかりではありません。仲間の励ましや協力があるから頑張れる選手もたくさんいます。マネジャーを始め試合に出ない部員のサポートも重要になってきます。部員たちが個々の役割を十分果たすことができれば、チームに勢いがつきます。

 子どものころから水泳を続けてきた選手たちは大学4年のインカレで一区切りをつけて社会に出ていきます。私の大学時代もそうでしたが、学生が主体になってあれこれ悩みながら部を運営することで、身につくことがたくさんあります。

 指導者として心掛けているのは「教えすぎては育たない」ということです。これは2000年シドニー五輪に向けて北島康介の指導を始めたころから、自分の指針にしてきました。指導する側が細かく指示を出し、選手が「言ってくれたことをやる」という受け身になると、自ら成長する機会を奪うことになります。

 4年生には「本音を言えるようにまとまれよ」などとアドバイスをします。悩みも聞いて、とことんつきあう。人を育てるには、めんどくさいことを、きちんとしなきゃいけないと思います。

 五輪でメダルを狙う選手は、自分を信じて高い目標に向かって努力する主体性が不可欠です。

 昨年の8月から東京五輪に向けて、萩野公介、大橋悠依ら社会人を含む6人の選手を強化してきました。東洋大の水泳部員も2人います。3年の白井璃緒(りお)、2年の今井月(るな)です。女子200メートル個人メドレーでリオ五輪に出場した今井はエースに成長していく可能性を持ちながら、それを自分で引き出すことがまだできていません。インカレを突破口にしてほしい。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年9月11日号