平昌五輪シーズン、名古屋で開催されたフィギュアスケート・グランプリ(GP)ファイナル2017のプログラムには、ジュニアGPファイナルの出場選手も紹介されている。

 ジュニア女子6人のうち、紀平梨花以外はみなロシア勢だ。現在シニアで活躍しているアレクサンドラ・トゥルソワやアリョーナ・コストルナヤと並んで、ダリア・パネンコワの名前がある。平昌五輪の翌シーズンにシニアに上がったパネンコワは体重管理に苦しんでいたといい、目立った成績を残すことはできなかった。大人になると体型が変わる女子は、10代半ばにジャンプ能力のピークを迎えてしまい、10代後半から難しい時期を過ごす場合が多い。今月2日、17歳のパネンコワは、インスタグラムで引退を発表している。

 そしてジュニア・ペアのページには、この大会で優勝したオーストラリア代表のエカテリーナ・アレクサンドロフスカヤ&ハーリー・ウィンザーが載っている。ロシア出身のアレクサンドロフスカヤはオーストラリア代表として競技会に出る決断をし、2017年世界ジュニア選手権で優勝、2018年平昌五輪にも出場した。

 しかしその後は故障もあり、今年に入ってからはてんかんの診断を受け、引退を余儀なくされる。うつ病にも苦しんでいたというアレクサンドロフスカヤは、7月に建物から転落し、20年の短い生涯を終えた。幼い頃からスケーター仲間として交流していたエフゲニア・メドベージェワもインスタグラムで悼んだ非業の死は、自殺とみられている。3シーズン前は世界トップクラスのジュニア選手であり、未来のスター候補だったスケーターが、一人は引退を決め、一人は逝去した事実は重い。

 アレクサンドロフスカヤを追悼するコメントを出していた国際スケート連盟(ISU)のヤン・ダイケマ会長は、その死を受け、冬季五輪・世界選手権の年齢制限引き上げを検討する意向を示したという(共同、オーストラリアン紙・電子版による)。来年のISU総会で議題になる可能性があるといい、現行の15歳以上から17歳以上(シーズンが始まる7月1日時点での年齢)への変更を提案する(承認された場合、2022年北京五輪後に適用される見通し)。2018年の総会でも怪我や燃え尽き症候群の懸念から年齢制限の引き上げが提案されたが、最終的には議案から外れたことも伝えられている。アレクサンドロフスカヤの痛ましい早世が、ISUを動かすことになるかもしれない。

 前述のGPファイナル2017名古屋大会で優勝、勢いに乗って平昌五輪で金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワは、18歳で迎える今季、競技会に出場するか否かが取り沙汰される状況にある。もし10代後半でキャリア継続が難しくなるような状況にあるなら、競技として健全とはいえないだろう。

 ネイサン・チェンを教えるラファエル・アルトゥニアンコーチは、ロシアのメディアに対し、使い捨てのカップで飲むコーヒーは陶器のカップで飲む時と味が違うと述べ、一度限りのチャンピオンへの違和感を露わにしている。アルトゥニアンコーチのジュニアからシニアに移行する年齢を上げるべきだという持論は、フィギュアスケートへの理解と愛情が深い名伯楽だからこそのものだろう。

 小さくて軽い少女たちが、懸命に練習して跳ぶ高難度ジャンプは尊い。しかし、キャリアを積んだ彼女たちが円熟したスケーティングを披露する場所が競技会には残されていないのなら、フィギュアスケートの形を再考する必要があるのではないだろうか。(文・沢田聡子)

●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」