9月3日にボクシングの東洋太平洋、WBOアジア・パシフィック、日本ライト級タイトルマッチを制し、日本王座6度目の防衛を果たしたライト級王者の吉野修一郎さん(28=三迫)。国内最強の名実を強固にしたものの、プロになってから5年間、ボクサーのファイトマネーだけでは十分ではないため副業もしているという。それでも、なぜ吉野さんはボクシングを続けるのか。ボクシングの魅力や日本王者の現実を吉野さんに聞いた。



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―日本王座6度目の防衛、おめでとうございます。

 ありがとうございます。みなさんの応援に感謝しています。

―史上初となる3冠タイトルマッチを制した吉野さんですが、ボクシング以外の仕事をしているって本当ですか?

 はい。家族もできて、より良い練習をする自分への投資(フィジカルトレーニングなど)のためにファイトマネーだけでは十分ではないので建設関係の仕事をしています。

―奥さまはどんなお仕事をされているんですか?

 歯科衛生士です。妻も忙しいですが理解して自分のために協力してくれています。お互い仕事と育児を分担しているので、今日もこの取材が終わったら18時に息子を保育園に迎えにいきます。

―トレーニングと仕事の掛け持ちは大変そうですね。

 毎日、建設業の仕事が終わってから練馬の所属ジムへ通っています。朝5時に起きて現場まで行って、8時から17時まで働いたあとに三迫ジムへ移動します。18時半から21時頃までトレーニングをして、それから埼玉の自宅まで帰るので、就寝は0時になります。

―そうした生活をどれくらい続けているのですか?

 プロボクサーになってから5年経ちますが、当初3年ぐらいは工場勤務と掛け持ちしていました。2017年に日本ライト級王座決定戦で勝利し、チャンピオンになったので、そのあとの1年間はボクシング1本に絞ったんですが、より良い練習をするために必要な収入を得たいと建設の仕事をはじめました。ただとくに今年はコロナの影響がかなり大きいです。試合数も観客の数も少なくなってしまいました。僕はいま年間2、3試合しているのですが、なかなかみなさんのイメージするような金額をかせぐのは難しい。

―ご自身でもチケット販売もされているのですか?

 ごく一部のチケットを扱っているだけですが、SNSで宣伝して、購入してくださる方とDMで直接やりとりをするか、自分から周りの人へ「よかったら来てください」とLINEを入れてチケットを取り置いています。席の割り振りも自分でしています。だから試合で入場する時も、皆さんがどの席に座っているのか大体頭に入っています。

―スポンサー集めもチャンピオン自ら動いて行っているんですか?

 ジムが興行のためにスポンサーを集めてくれています。私は地元や東京の支援して頂いてる方にお会いするのに動いている程度です。

―高校時代からのエリートで多くのタイトルを獲得してきた吉野さんにも、ボクシングが“キツい”と感じる瞬間はありますか?

 仕事とトレーニングを両立させるのがしんどいです。朝早くから建設現場での肉体労働をして、それが終わったあとに、所属ジムでトレーニングをして、帰宅したら深夜で…っていう日々が身体にこたえます。現場では社長さんが気をつかってくれて、けがをしそうな作業は免除してくれているんですが、重いものを運ぶ作業なので終業する頃にはドッと疲れがきます。

—そうまでしてボクシングを続ける理由を教えてください。

 父と叔父がアマチュアボクサーであった影響で、高校からボクシングを始め、大学に進学したあともアマチュアボクシングで頑張っていました。オリンピック出場の夢が叶わなず大学卒業とともに一度引退してボクシングから離れましたが、同世代のボクサーたちがプロで活躍しているのを見て、もう一度ボクシングを、今度はプロの世界でチャンピオンになろうと決意し、プロ転向しました。階級的には、ライト級という世界でも層が厚く、過去日本人でもガッツ石松さん、畑山隆則さん、小堀佑介さんの3人しか世界チャンピオンが誕生していない難関の階級です。本場アメリカ、ラスベガスでもとても人気のある選手がひしめいているこのライト級は何億円ものファイトマネーが得られる夢のような世界です。そこに日本人として、なんとしても食い込んで世界チャンピオンになるのが僕の夢なんです。また僕の試合を見てたくさんの人に勇気や感動を与えられるボクサーになること、それもボクシングをしているモチベーションです。

―総合格闘技などへの転向を考えたりしますか?

 ボクシングの試合で稼げるので、まったくないです。でも確かに周囲には他の格闘技へ転向するボクサーもいますね。でも自分はボクシングが好きですし、世界王者になるという夢もある。自分のチャレンジしたいライト級は世界でも層が厚く、頂点に君臨する世界王者ワシル・ロマチェンコ選手は1試合で2億円も稼ぐと言われています。

―引退の時期や引退後のネクストキャリアについて考えることはありますか?

 僕は目などの大きなけがをしてしまったらやめようと考えています。ボクシングのけがは命に関わるものが多いので、脳や目をやられてしまうと引退後の人生にも影響を及ぼす。周囲でも、そういったけがでやめる人もいれば、「1度敗戦したら辞める」という人もいます。ボクサーは1試合に人生の全てを賭けているので、いくら強くて何十戦無敗を積み上げていても、1度負けたら全てが燃え尽きてしまう。そういう世界なんです。

―将来の不安は感じますか?

 ボクサーをやめた後の生活について考えると正直不安ですね。プロ経験のある人のなかでもトレーナーになれるのはほんの一握りです。教えられる生徒も肩書きがあるトレーナーじゃないとついてこないので、チャンピオンの経歴がないとなかなかトレーナーにはなれない。僕はトレーナーよりも、飲食店など開業できたら、と考えています。

―次は世界戦が期待されていますが、試合の予定はありますか?

 世界ランキンクは11位まで上がりました。世界ランキング15位以内に入るとチャンピオン選んでくれたら世界タイトルマッチもできる位置です。まずはコロナが収束すれば海外、特にアメリカで試合のチャンスがあればと願いますが、そのためにも日々の練習を頑張ります。

<プロフィール>
よしの・しゅういちろう/プロボクサー。1991年生まれ。栃木県鹿沼市出身。三迫ジム所属。作新学院ボクシング部時代にインターハイ・国体・選抜で優勝し高校4冠、東京農大ボクシング部では国体二年連続準優勝を果たす。大学卒業後、約2年のサラリーマン生活を経て、2015年プロデビュー。17年日本ライト級にて王座獲得。19年、OPBF東洋太平洋・WBOアジアパシフィックライト級王座獲得、20年9月、3タイトルを賭けた防衛戦で勝利し、日本ライト級王座では6度の防衛に成功した。

(聞き手・原田加菜)