指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第39回は「コーチにとっての海外遠征経験」について。



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 今年度初めての全国大会となる日本学生選手権が10月1日から東京辰巳国際水泳場で開かれました。密を避けるために日程を1日延ばし、無観客で実施。感染拡大防止策はまだ手探りの部分がありますが、全国大会を開催していく道筋はできたと思います。

 17、18日に25メートルプールで行う短水路日本選手権があり、12月に日本選手権、来年2月にはジャパンオープンを開く予定です。

 4月の日本選手権の中止が決まった直後、味の素ナショナルトレーニングセンターのプールサイドの部屋に何人かのコーチが集まり、今後の大会日程について話し合いました。世界中で感染が広がって先が見えない不安に包まれていた時期でしたが、10月以降の下半期に競技会を集中していく案を固めました。

 上半期は基本的な練習でじっくりベースを作り、下半期に複数の大会でレース感覚を磨いていく。転んでもただでは起きないという姿勢で来年の五輪につなげていく──。春先の苦しい、まったく見通しが立たない時にコーチ同士でそんな前向きな話ができて、よかったと思っています。

 今月中旬から海外遠征を予定しています。ハンガリーのブダペストで開かれる競泳のチーム対抗戦、国際リーグ(ISL)に出場します。ISLは国際水泳連盟とは別組織が行う大会で、2019〜20年シーズンから始まりました。今回は北島康介GMが率いる新設チーム「東京フロッグキングス」として日本選手23人を含む男女32選手が選ばれ、私はコーチの一人として参加します。

 北島GMが南カリフォルニア大学のチームで師事したデーブ・サロ氏がヘッドコーチ。セントラルスポーツの鈴木陽二コーチ、イトマン東進の石松正考コーチらも帯同します。先日、ウェブを使ってコーチミーティングを行いました。北島GMは「日本の競泳を強くしたい」との思いからチームを結成しました。萩野公介、大橋悠依ら日本選手にとって、海外のトップ選手と一緒に戦う経験は、大きな刺激になります。コーチにとっても友好関係を広げるチャンスです。

 01年福岡世界選手権後の8月下旬から、オーストラリアのブリスベンで開かれた国際総合大会のグッドウィルゲームズに北島と参加しました。オーストラリア、米国、欧州選抜、日本が入った世界選抜の4チームによる対抗戦です。このときブラジル、ニュージーランド、ペルーといった多くの国のコーチと仲良くなりました。

 03年のバルセロナ世界選手権では、ブリスベンで友人になった各国のコーチたちと「よっ、久しぶり」と声を掛け合いました。

 北島が初出場した00年シドニー五輪では私も緊張していて、01年福岡世界選手権の男子100メートル平泳ぎでは北島とともに興奮しすぎて失速した反省がありました。海外のコーチたちと世界大会のプールサイドで会話を交わすことで、辰巳国際水泳場のようにリラックスできるようになったのです。選手にもいい影響を与えたと思います。

 ISLには日本から若手のコーチも参加します。私にとってのブリスベンの大会のように貴重な経験が積めるはずです。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年10月16日号