指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第41回は、瀬戸大也選手の一連の行動について。



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 東京五輪の競泳日本代表に内定している瀬戸大也に対して、日本水泳連盟は10月13日の臨時常務理事会で年内活動停止とする処分を決めました。女性問題が発覚したことを受けて、日本水連の競技者資格規則で処分の対象となる「スポーツマンシップに違反したとき」「連盟及び加盟団体の名誉を著しく傷つけたとき」に当たると判断されました。競技者資格規則は「善良な市民、健全な社会人としての品性を保ち、市民社会における水泳スポーツの地位の向上に寄与すること」などと定めています。

 青木剛会長は「社会人選手として、五輪内定選手として、『水泳日本選手団行動規範』に準じた行動をするものと期待していたが、一連の行動は、それに反したもので大変残念」とのコメントを出しました。私もそのように考えます。

 昨年の世界選手権個人メドレー2種目で金メダルを取って東京五輪代表に内定しましたが、実質的に日本代表選手団の一員として責任ある行動が求められています。特に五輪代表は人から尊敬されるし、逆に軽率な行動をすればたたかれる。公人としての振る舞いが求められるのは、五輪強化選手に対する日本オリンピック委員会(JOC)のインテグリティ(誠実さ、真摯さ、高潔さ)教育プログラムにも盛り込まれています。代表選考直後の合宿の講習で何度も伝えてきたことですが、心に響いていなかったことが残念です。

 今回の件で選手たちと話をする中で、「『競泳という種目を応援する気にならなくなった』と言われたことがつらい」という声を聞きました。水泳界全体が批判されることは心外ですが、期待の大きさの裏返しと受け止めています。

 前回も書いたように私が大学3年の1984年、ロサンゼルス五輪の競泳日本代表選手が大麻を吸引する事件が起こりました。86年にコーチの仕事を選んでから、スポーツ選手のモラルや行動規範について繰り返し考えてきました。

「スポーツを通して心身を向上させ、フェアプレーの精神をもって平和でよりよい世界の実現に貢献する」というオリンピックの精神やスポーツマンシップというのは、「法を破ってはいけない」という低いレベルの話ではなく、それよりもっと大きな高い倫理観の上にあると思っています。

 日本代表選手は水泳が速いだけでなく規範となるべく高いモラルを持った人間であるべきだと考えて、北島康介を始め多くの選手を指導してきたつもりです。選手は一人で速くなれるわけではありません。多くの人の支援を得て世界の舞台で戦える態勢が整います。「応援したい」と思われる人間的な魅力がなければ、五輪で大きな力は発揮できないのです。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の取り組みが続く今シーズン、ソーシャルディスタンスが取りにくいなどの理由で一時はスポーツに対して批判の目が向くこともありました。そんな厳しい状況を乗り越えて、スイミングクラブを始めとした関係者の努力によって、コロナ禍の中でもトレーニングや競技会ができるようになってきました。

 五輪の競泳日本代表を目指す選手たちは、スポーツの価値を高めるトップランナーとしての自覚を持ってほしいと思います。
(構成/本誌・堀井正明) 

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年10月30日号