指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第43回は「コロナ禍の国際大会」について。



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 北島康介GMが率いる「東京フロッグキングス」のコーチとして10月24、25日、競泳の国際リーグ(ISL=インターナショナル・スイミング・リーグ)初戦に挑みました。

 ハンガリーのブダペストで開かれている大会は10チームが参加する対抗戦です。4チームが争う予選リーグの試合(2日間)を4戦して、8チームが準決勝に進みます。初戦は興奮しすぎて実力を出し切れなかった選手もいましたが、チームがよくまとまって試合を楽しんでいます。レースを重ねるごとに調子を上げられるように現地での練習を組み立てていきます。

 欧州で再び新型コロナウイルスの感染者が増えている中での大会は、感染防止対策が徹底されています。

 選手、コーチはPCR検査を受けて感染していないことを確認して日本を出発しましたが、ハンガリー入国直後にもPCR検査を受け、結果が出るまで宿舎の個室を出ることができません。食事も運んでもらい、ほぼ1日、一人で部屋の中で過ごし、陰性が確認されて初めてチームのウェアを取りに行きました。PCR検査は3日に1回、繰り返し受けています。

 宿舎のホテルはドナウ川の島にあり、歩いて15分ぐらいの大会会場までシャトルバスが出ています。試合や練習以外の外出は90分までに制限され、マスクの着用が義務づけられています。マスクをつけていないと試合の得点が減点される仕組みもあります。マスクや消毒液は十分に用意されていて、検温の態勢も整っています。

 練習プールや食堂はチームごとに時間が区切られているので、これまでの国際大会とは違って海外の選手と気軽に交流できる機会はあまりありません。無観客の大会会場に入れるのは陰性が確認された選手とスタッフだけなので、出場4チームが一緒にウォーミングアップをします。

 ウィズ・コロナの時代でも、ここまで感染対策を徹底すれば国際大会は開けるという実感があります。

 大会会場のドゥナアリーナは国の施設で、リオ五輪で女子個人メドレー2冠など金3個、銀1個を獲得したカティンカ・ホッスーらハンガリーのトップスイマーの練習拠点としても使われています。コロナ禍でも海外から選手を受け入れて国際大会を開くためには、スポーツを振興する政策の裏付けが必要でしょう。国民の理解も不可欠です。大会の運営から学ぶところがたくさんあります。

 来年の東京五輪で勝つためには、練習だけしていればいい、というわけにはいきません。海外のライバルの実力を知るための実戦経験が重要です。東京で国際大会を開催することが難しい現状では、海外に出て試合経験を重ねるほかありません。ところが、五輪に向けた強化のために海外に出た選手は帰国後2週間、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)が使えなくなってしまうのです。PCR検査で陰性が確認できれば施設を利用できるような態勢を早急に整えてほしい、と思います。

 行動に制限があるとはいえ、指導者にとっても国際大会は大きな刺激になります。感染拡大防止対策も含めて、日本の水泳の強化につながることを貪欲に吸収してくるつもりです。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年11月13日号