指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第44回は「チーム対抗のおもしろさ」について。



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 ハンガリーのブダペストで開かれている競泳の国際リーグ(ISL=インターナショナル・スイミング・リーグ)の試合を通して、水泳のおもしろさを改めて実感しています。

 ISLにアジアから初参戦した東京フロッグキングスは、日本の選手を中心とした多国籍チームです。ヘッドコーチは米国の南カリフォルニア大学で多くの五輪メダリストを育ててきたデーブ・サロ氏。北島康介ゼネラルマネジャー(GM)も師事したサロコーチの「チームが第一」という考え方が浸透して、一体感が生まれています。

 チームメートに様々な国籍の選手がいることが、いい刺激になっています。外国人選手は日本のコーチやトレーナーから学ぼうとする貪欲な姿勢が見られて、プロフェッショナルな意識を感じます。男子は入江陵介、女子はリオ五輪の800メートルリレーで優勝した米国のリア・スミスがキャプテンで、リーダーシップを発揮しています。

 日本の競泳代表チームでは、学閥やクラブ閥が交流の妨げになることは避けたい、と考えています。選手もコーチも、おのおのが独立した気持ちを持って、お互いを尊重しながら高め合っていく。日本代表チームとしていい結果を出すためには、そういうプロフェッショナルな意識が必要不可欠です。東京フロッグキングスも国籍や所属は関係なく、選手やコーチの間にフラットな信頼関係が生まれているように思います。

 短水路(25メートルプール)で行われるISLには10チームが参加しています。予選リーグの試合は4チームが参加して2日間行われます。各チーム2人ずつ計8人が出場する個人種目は、1位9点、2位7点、8位1点と順位に応じて点がつき、リレーの点は2倍です。予選がない一発勝負で、表彰式もないのでテンポよく試合が進み2時間弱で終わります。

 目新しい試みとして「ジャックポット」と「スキンレース」があります。

 ジャックポットは種目ごとに設定されたタイム差を上回る差をつけて勝った選手が、負けた選手の得点を奪い取る仕組みです。差をつけられた選手の得点はゼロになるので、大きな点が動くことになります。

 スキンレースは2日目の最後にある50メートルの勝ち抜き戦です。3分間隔で3レースを行い、8人から4人、4人から2人、最後は2人で優勝を争います。体力と精神力が必要なタフなレースです。初日のメドレーリレーで勝ったチームが、スキンレースの種目を選ぶことができます。

 選手をどのレースに使うか、チーム戦略も重要です。五輪や世界選手権とは違った競泳の楽しみ方が提供できる大会だと思います。今回は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために無観客で行われていますが、観客が入ったら大いに盛り上がるはずです。

 日本の選手たちは世界のトップとの競い合いでレース感覚が磨かれ、試合が続く厳しい日程の中で練習もしっかりできています。

 私自身は一コーチとして水泳を愛する者として、その場その場でレースを楽しむというのはこういうことだったんだな、と思い出している感じです。かけ出しのコーチのころに戻ったような気持ちでいます。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年11月20日号