指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第45回は「連戦で磨かれる選手の適応力」について。



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 10月16日からハンガリー・ブダペストで開かれている競泳の国際リーグ(ISL=インターナショナル・スイミング・リーグ)は、11月10日に予選リーグが終わりました。10チーム中6位で準決勝に進んだ東京フロッグキングスは、予選リーグ4試合を通して力を十分に発揮して、いい泳ぎを続けてきました。

 短期間に多くのレースに出るので、疲労はたまってきます。ベストの状態ではなくても最大限の力を発揮するには、大会中にどんな練習をすればいいのか。五輪や世界選手権の戦い方にも通じるノウハウを、選手たちは実戦を通して学んでいます。私を含めたコーチ陣は、選手の状態を見極めながら、試合で力を出すための方策を考えます。

 青木玲緒樹(れおな)は4試合目の50メートル平泳ぎで短水路日本記録を0秒40更新する29秒57をマークしました。環境が変わると力を出し切れないところがあって、序盤戦はターンもよくなかった。足に疲れが出て陸上トレーニングも少し抑えていたのですが、3、4試合目は朝に軽いウェートトレーニングを取り入れて、そこから動きが変わりました。水泳の刺激よりも強めの刺激が入ったことで、疲れているけれど体が動き始めたのです。

 3試合目の50メートル平泳ぎで復調の兆しが見えたので、4試合目の初日は先に行われる200メートル平泳ぎを別の選手に代えて、青木はウォーミングアップから50メートルに集中しました。仲間に助言を受けていたターンも決めて、大幅に自己の日本記録を更新しました。

 萩野公介と大橋悠依は予選リーグ全4試合で400メートル個人メドレーを制しました。2人とも陸上トレーニングで多めの刺激を入れました。疲れたからといって普段やっている陸上トレーニングをおろそかにすると、長丁場の大会で体の切れがにぶってきます。大橋が3試合目の200メートル個人メドレーで自己の短水路日本記録を0秒05上回る2分5秒04を出すなど、連戦でも高いレベルの記録を維持できたことは、次のステップに向けた自信になるはずです。

 東京フロッグキングスを率いる北島康介ゼネラルマネジャー(GM)も現役時代、複数の国で行われるワールドカップ(W杯)や欧州グランプリに出場して連戦の経験を積みました。海外を転戦して、どんな環境でも力を出せる適応力を磨いたことが、五輪2大会金メダルにつながりました。

 欧州では夏から秋にかけて新型コロナウイルスの感染者数が急増しています。大会が終わった後、欧州の選手はどうするのか聞いたところ、オランダ、フランス、ドイツ、イギリスなどのトップ選手の多くは、各国のナショナルトレーニングセンター(NTC)に戻って練習を続けると言います。コロナ禍の中で国が競泳選手の活動をサポートしているのです。

 一方、日本では海外から帰国した選手は2週間、感染拡大防止のためにNTCが利用できない状態が続いています。東京フロッグキングスでも帰国直後の練習場所の確保に頭を悩ませている選手がいます。

 来年の東京五輪開催を目指す国として、海外で試合をした選手が帰国してすぐに練習が続けられるように、欧州各国のような支援策の充実を望みます。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年11月27日号