指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第49回は「東京五輪の日本代表」について。



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 今年の新春合併号から始めた連載は次回でちょうど1年になります。東京五輪の熱気を現場からお伝えしようという当初のプランは、1年前には思いもよらなかったコロナ禍で変更せざるを得ませんでした。

 初めての事態に苦労の連続でしたが、困難に直面したときこそ力量が問われると思いながら指導を続けてきました。スポーツのあり方について改めて深く考えた1年でもありました。

 4月から延期になっていた日本選手権を12月に開催できたのは、よかったと思います。東京五輪競泳会場の東京アクアティクスセンターで初めて泳ぐことができて、止まっていた時計が動きだした気持ちです。

 日本選手権を終えた翌7日から、東京都北区の国立スポーツ科学センター(JISS)と長野県東御市の高地トレーニング施設・GMOアスリーツパーク湯の丸に分かれて代表候補選手の合宿を始めました。10〜11月の国際リーグ(ISL)から続けてレースに出場してきた選手も多く、スピードや体の反応のよさを生かした練習を組んでいます。27日まで落ち着いた環境で合宿を行い、年明けの強化につなげていきます。

 開催時期がオフシーズンにずれこんだ日本選手権はどの選手も調整が難しかったと思いますが、有力選手は課題を持って泳いでいました。最終日の男子200メートル平泳ぎを制した渡辺一平は底力を見せました。競り合って2位になった佐藤翔馬はISLからの出場で十分な調整ができていない中で100メートルに優勝して、確実に力をつけている印象です。

 背泳ぎの入江陵介もISLから好調を維持しています。200メートル自由形世界選手権銀メダルの松元克央(かつひろ)が100メートルバタフライを制して、スケールの大きな泳ぎを見せました。女子の平泳ぎでは2015年世界選手権200メートル平泳ぎ金メダルの渡部香生子(かなこ)が2種目に勝って復活してきました。

 五輪に向けて役者がそろってきました。この大会単独で考えると記録的にもの足りないところはありますが、春から大会の中止が続いてレースの経験が少なかった上、12月という開催時期を考えると、十分頑張ってくれたと思います。

 私が指導する萩野公介は男子個人メドレーで2種目に優勝しました。400メートルより200メートルのほうが内容がよかった。ISLも含めて夏場からタイムトライアルをたくさんやってきて、持久力よりもスピードを強化してレースに向かっていく気持ちを確認しながらやってきました。ようやくスタートラインに立ったという感じがしています。

 五輪の日本代表は、来年4月の日本選手権で選考されます。個人種目は2位に入って、派遣標準記録を切ることが条件です。一人でも多くの選手に派遣標準記録を突破してもらいたいし、日本代表チーム全体でいうと、五輪のリレー種目のためにも自由形の選手の強化が不可欠です。

 日本選手権を終えて8週間後の来年2月にジャパンオープンがあり、その8週間後が五輪代表選考会を兼ねた日本選手権です。8週間ごとのサイクルでステップアップを目指します。合宿を通してコーチ同士の情報共有も進め、日本代表チームのレベルアップにつなげていきたいと思います。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2020年12月25日号