指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第50回は、12月7日から始まった競泳ナショナチームの合宿について。



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 標高1735メートルの準高地にある長野県東御市のGMOアスリーツパーク湯の丸で12月7日から始まった競泳ナショナルチームの合宿に、フレッシュな気持ちで取り組んでいます。

 10月から11月にかけてクラブチーム「東京フロッグキングス」(北島康介GM)のコーチとして参加した競泳の国際リーグ(ISL)で、大きな刺激を受けました。ヘッドコーチのデーブ・サロ氏と一緒に指導することで新しい視点が得られたように思います。サロコーチのユニークな練習メニューは、私の発想をふくらませてくれました。

 たとえば50メートルの練習で、キック、プル(腕のかき)といった一つの動作を続けるのではなく、ぶつ切りにするメニューがあります。ドルフィンキックを6回打ったら、足をひざから曲げて水の上に出して腕のかき(スカーリング)だけで20メートルまで進み、そこからスプリントをやり、ゆっくり泳ぐイージーをはさんで、キックのハードで締めくくる。初めは「なんの意図があるんだろう」と思っていましたが、強い刺激を短く入れて体をシャキッとさせたり、陸上トレーニングの代わりに水中で筋力アップを狙った動作を入れたりしているのだな、ということがわかってきました。

 米国で多くの五輪選手を育ててきたサロコーチの練習のやり方は、彼に教わってきた寺川綾や北島康介から聞いていましたが、実際に一緒に練習するといろんな発見がありました。遊び心があるというか、選手をあきさせない工夫が随所に取り入れられていました。

 ハンガリーのブダペストで開かれたISLは、新型コロナウイルスの感染予防策として行動範囲が限られた中で試合と練習を繰り返しました。一緒に参加した新潟医療福祉大学の下山好充コーチ、東京スイミングセンターの西条健二コーチらスタッフ、選手と様々な話ができたことも、頭をリフレッシュさせることにつながりました。プールで選手を教えてレースに出て、結果をともに受け止め、よろこんだり悔しがったり。水泳コーチの原点に立ち返ることができたのが楽しくて、その気持ちが今も続いている気がします。

 ISLから日本選手権と試合が続き、トレーニングが十分に積めていなかったので、今回の準高地合宿では陸上トレーニングもしっかり取り入れています。食事がおいしいこともあって、この2週間で選手の体がどんどんできあがってきています。鍛錬期なので練習記録はまだ上がってきていませんが、レースを何本も重ねてきたのでいい泳ぎを維持できています。

 今回は、いわゆる定番練習をほとんどやっていません。目の前で答えがはっきりわかる練習ではなく、答えはもっとずっと先に出てくる、長い方程式を作っているような感じです。練習メニューを作るときに、どんどんイマジネーションがわいてきます。選手もそれをよく理解してくれて、相互理解のもと前に進んでいる実感があります。こういう感覚は久しぶりです。

 いい答えが出るかどうかわかりませんが、去年のトレーニングの焼き直しではなく、1年延びた五輪に向けて違ったアプローチができている。ISLに行ってよかったと思います。
(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

※週刊朝日  2021年1月1‐8日合併号