新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年延期され、今また開催が不安視されている東京五輪。多くの選手にとって、延期は死活問題となったが、追い風になった選手もいる。競泳の佐藤翔馬選手もその一人だ。この1年で2秒もタイムを縮めた。AERA 2021年2月1日号から。
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2020年なら、間に合わなかった。だが1年の延期で東京が、そしてメダルが見えてきた選手たちがいる。
コンマ1秒を競う競泳の世界で、昨年1年間で自己ベストを2秒も縮めたのが19歳の佐藤翔馬(東京スイミングセンター)だ。まず20年1月の北島康介杯男子200メートル平泳ぎで、前世界記録保持者の渡辺一平(23、トヨタ自動車)を破り優勝。タイムは自己ベストを1秒63も更新する2分7秒58だった。
10月の学生選手権で世界歴代5位の2分7秒02。12月の日本選手権では、前半は世界記録を上回るハイペース。リオ五輪の銅メダルの記録を上回る2分7秒69で渡辺に次ぐ2位だった。100メートルは59秒59で初優勝した。
■2年足らずで5秒短縮
19年4月に慶應義塾大学に入学したときの自己ベストは2分13秒。2年足らずで5秒以上縮め、日本のお家芸、平泳ぎのエースの座を狙うまでに成長した。
「大学入学当時は24年のパリ五輪を目指そうと思っていましたが、去年の1月に2分7秒台を出せて東京に間に合ったし、1年延期で金メダルも狙いにいけるようになりました」
0歳からベビースイミングで水に親しみ、小学3年生のときに、アテネと北京五輪で平泳ぎ2種目連覇の北島康介らが輩出した東京スイミングセンターに移籍した。少年時代、記録会で憧れの北島に初めて会って握手してもらった日から、佐藤も平泳ぎが専門になった。
高2まで全国で表彰台に上ったこともなく、練習についていくのがやっとだった。父の背中を追い医師を目指していたが、高3で初めて日本代表に選ばれ、ジュニアパンパシフィック選手権に出場。あこがれの北島のように五輪で金メダルを、という夢に向かって進み始めた。
男子平泳ぎは国内に世界トップレベルの選手がそろい、五輪代表争いも熾烈だ。前出の渡辺のほか、17年世界選手権銀メダルの小関也朱篤(28、ミキハウス)や19年世界選手権代表の小日向一輝(26、セントラルスポーツ)らも有力候補。佐藤は言う。
「僕は国際大会の経験もまだ少ないし、いま海外の試合がほとんどない中で、国内に強い選手がいて、気を抜かずに世界を意識することができてうれしい」
国際試合の経験が積めない状況にもかかわらず、世界レベルのレースを体感できていることが追い風になっている。
佐藤の強みは、足首の可動域の大きさを生かした強いキック。「足をしっかり後ろに向けることができるので、ほかの選手より、水を捉えられる自信がある」と話し、このキックを生かして、前半からスピードに乗っていく。
「もちろん僕以外に成長している選手はいると思うけど、1年で2秒もタイムが伸びる選手はほかにいないと思います。自分が今までにないスピードで泳げたときはすごく気持ちいい。もっともっと進化して、康介さんのように誰にも超えられない存在になりたい」
(文中敬称略)(編集部・深澤友紀)
※AERA 2021年2月1日号より抜粋
「金メダルも狙えるようになった」競泳の“超新星”佐藤翔馬 五輪延期が追い風に
佐藤翔馬(さとう・しょうま、19)/2001年2月8日生まれ、東京都出身。幼稚舎から慶應義塾。200m平泳ぎの2分7秒02は世界歴代5位の記録。写真は20年12月の競泳日本選手権男子100m平泳ぎを制したときの様子 (c)朝日新聞社