驚きの一報だった。巨人が19日、育成選手の山下航汰と来季契約を結ばないことを発表した。球団は育成選手で再契約する方針だったが、山下が退団を選び、他球団での支配下昇格を目指すことを決断した。今後は合同トライアウト受験も視野に入れているという。

 山下は健大高崎で通算75本塁打をマーク。高2の春に出場した選抜大会では2本の満塁アーチを放ち、同年夏の群馬県大会予選でも5試合連続本塁打とスラッガーとして注目された。18年の育成ドラフト1位で巨人に入団。この年のドラフトは同学年の大阪桐蔭・根尾昂(現中日)、藤原恭大(現ロッテ)、報徳学園・小園海斗(広島)に1位指名が集中した。アマチュア野球を取材しているスポーツ紙の記者はこう振り返る。

「打撃だけを見れば山下は根尾、藤原より上だったと思います。パンチ力がありますがホームランバッターというより右中間、左中間を射抜く中距離打者。ミート能力が格段に高く、空振りが少ない。オリックスの吉田正尚みたいなタイプですね。育成ドラフトになったのは守備位置が外野と一塁だったのが大きく影響していると思います。外国人や強打者が守るポジションで高卒の野手はなかなか取りにくい。肩が弱いのもネックになった」

 その打撃センスは本物だった。19年にイースタン・リーグで打率.332、7本塁打、40打点で首位打者に輝く。高卒1年目でファームの首位打者はイチロー氏以来27年ぶりの快挙だった。同年7月に支配下登録されると、9月4日の中日戦(群馬)でプロ初安打となる右前打をマークするなど1軍で12試合出場。順調に階段を駆け上がったが、昨年5月に右手有鈎骨を骨折。その後も肘を痛めるなど度重なる故障で思うような成績を残せず、オフに再び育成契約を結んでいた。今季は3軍では48試合出場で打率.366と格の違いを見せたが、2軍で21試合出場して打率.226、1本塁打、6打点。不完全燃焼に終わり、支配下昇格は叶わなかった。

   他球団の編成担当は山下について、こう分析する。

「打撃センスは大げさでなく、天才レベルです。金属バットから木製に代わり、直球、変化球のキレが高校生と全く違うプロの世界で高卒1年目に首位打者を獲るなんて考えられない。山下の良い所は打撃の懐が深くて柔らかさがある。打てるポイントが多いので緩急にも崩されず広角に安打を打てる。足も速くはないが走塁が下手なわけではない。問題は守備ですね。一塁と左翼だと起用法がどうしても狭まる。個人的には指名打者で起用できるパリーグ向きの選手だと思います。パリーグは短所に目をつむって長所を伸ばす育成方針の球団が多い。年齢も21歳と大学3年生の年です。今の大学生で山下ほど打てる打者はなかなかいない。バットコントロールの巧さは各球団の編成担当が見てきた。複数球団が名乗りを上げてもおかしくないと思います」

 巨人で育成選手として再契約の打診を断り、新天地を目指すのは勇気ある決断だ。退路を断った山下はプロの世界で輝きを放てるか――。

(安西憲春)